琥珀の記憶 雨の痛み
「私ね、本当はとっくにフラれてたんだぁ」

漸く2人で話せる時間が取れた時、ナツが言った。


「告白もさせてもらえなかった」


尚吾くんの方から、先に言われたらしい。
彼にとってナツは良い友達だと。
好きな人がいる、と。


「私が知ってる人? って聞いたの。そしたらうんって」


――だから、その時から分かってたんだ、と。

気まずそうに笑って、彼女は言っていた。


ナツの気持ちを考えたら、私は言葉が出なくて。
なのに彼女は、私を責めなかった。


「その後もね、莉緒はユウくんとくっつけばいいのにって、ずっと思ってたよ。莉緒は誰が好きってはっきりとは言わなかったし、もしそうなれば、また私にも可能性あるかなって……。でもホントは、やっぱりタケなんだろうなって思ってた」


ごめんと言ったのは、私ではなく、ナツの方だった。


「私のせいだよね。私が先に言っちゃったから、莉緒は言えなくなっちゃんたんだよね」


――『全員がうまいことくっつくなんて有り得ねえだろ』
いつかユウくんが言っていた。
その通りだと、理屈では分かっているけれど。


本当は最初にナツに聞かれた時に、私がちゃんと言えれば良かったんだ。
尚吾くんが好きだと、あの時に。

言わなきゃいけなかった。
大事な友達なのだから、尚更。


けどあの頃、私はまだ自分の気持ちに自信がなくて。
本当にそれが恋なのかどうかすら分かっていなくて。

私の小さくて不確かな『好き』より、ナツの『好き』を守りたいと思ったんだ。


やっと全てを話せた私のことを、ナツは改めてハグ付きで祝福してくれた。

「良かったね」「莉緒だから許すよ」と――、代わりに、KaZを紹介しろという条件付きで。
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