琥珀の記憶 雨の痛み
立ち漕ぎでぐっと力を込めてペダルを踏む。
スタートダッシュ成功!

このまま公園横の道さえ過ぎてしまえば……


「ちょっ! 待って、莉緒ちゃん!!」


ブウン、と原付が私にあわせて加速するエンジン音と共に、知っている声が後ろから追いかけてきて拍子抜けする。

ゆるゆるとスピードを落とし、歩道に足をのせて止まり振り返れば、そこにいたのは。


「――え、なんだ……」

「何でいきなり逃げるの!? 普通一度振り返るでしょ!」


追いついてきた原付の主は、タケだった。
ほっと気が緩んで、一気に力が抜けていく。

タケはハーフタイプのメットを外しながら苦笑して、メットで潰れた髪をほぐすようにふるふるっと頭を振った。


「莉緒ちゃんウケる。チャリ漕ぐの超速いね。俺後から出たし国道の信号でもつかまってたけど、それでももっと早く追いつくと思ったのに」

「追いかけて……来たの?」


笑いながら話すタケがちょっと眩しかった。
ああ、ちょうど公園裏手の小さな入口の前だから、煌々としてる街灯のせいか。

なんとなく直視出来ずに、メットのおでこ部分にくっついたゴーグルなんかを見つめてしまう。


「ん、なんか心配だったから。でも、逆に俺が怖がらせたみたいだな、ごめん」


あ……心配させちゃったんだ。
っていうか、心配してくれるんだ。

タケも私をグループから追い出したいのかも、と思ったのは、勘違いだったのかもしれない。


嬉しかった。
だからちょっと、顔が緩んだのだと思う。
それを見たタケが、くしゃりと顔を綻ばせた。
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