琥珀の記憶 雨の痛み
「こんな通り慣れた道、全然危なくないって分かってるのにどうかしてたわ。ちょっと自意識過剰だよね」


知り合いだとも思わずにいきなり逃げたことが恥ずかしくなって、照れ笑いでそう言うと、タケは急にまじめな顔になった。


「や、そんなことないって。実際変なヤツもいるから気を付けて。うちの姉ちゃん、この辺で痴漢もどきに遭遇したって言ってたし」

「ち、痴漢……もどき?」

「うん、昔のことでもう本人全然気にしてないし、具体的に聞くとなんだかギャグみたいな話だけど」


それからタケはちらっと腕時計に目をやって、「時間大丈夫?」と確認してくれる。

そうだ、ゆっくり話してる場合じゃなかった。


「送ってくよ」

「え、どうやって」


タケの原付と自分の自転車を交互に見て、いくらなんでもそれは無理でしょ、と吹き出しそうになる。

でもタケはメットを被り直して、にこりと笑った。


「ハンドルしっかり握って、ちょっとだけ漕いで。進み始めたら足ペダルから離してね」

「は……?」

「いいから、時間ないんでしょ。進みながら話そう」


訝しみながら、言われた通りに自転車を少し走らせる。

間を置いてタケの原付が動き出した音が聞こえた。

安定したところで足を離すと、背中にぐっと感じる力強くあったかい感触に驚いた。


「う、わ……っ」
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