琥珀の記憶 雨の痛み
器用に原付を片手で運転しながら、もう片方の手で背中を押してくれている。

くんっと自転車のスピードがあがり、気持ちよく風を切った。

自分で漕ぐよりも、少しだけ速い。


「大丈夫? 怖くない?」

「平気、むしろ気持ちいい!」


楽だし速いし気持ちイイ。

たまに背中の手が外れて、代わりに片足を自転車に引っかけて押される。

タケは随分慣れた様子だから、よくこうやって誰かを押してるのかも。

原付の正しい運転の仕方なんか分からないけど、でもこれってどう考えても……


「これ、捕まる!?」

「まともな大人に見つかったら捕まる!」


やっぱり。
絶対、やっちゃいけないコトだよね?


「あるでしょ、ホントは駄目なのにやっちゃうことって。その許容範囲って、人それぞれだと思うんだよね。俺的にはこれはOK、見つからなければね」


タケはそう言って、私の顔色を確認するみたいに覗きこんでくる。

「あ、危ない! ちゃんと前向いてて!」

慌ててそう言うと、楽しそうに笑った。

視線を前方に戻して、「でも莉緒ちゃんが嫌ならやめるよ」と言いながら。


ホントは駄目なのにやっちゃうこと。

例えば親に吐いた小さな嘘とか。
例えば地下道の坂を自転車に乗ったまんま下るとか。


未成年なのに、煙草を吸う、とか……?


『人それぞれ』という言い回しに、妙に納得した。
基準が違うだけで、私だって同じだった。
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