琥珀の記憶 雨の痛み
「でもやっぱり悪いコトは悪いコトだからさ、やってる本人にとっては許容範囲でも、周りにとっては受け入れられない事もあると思う」


タケが、みんなの煙草のことを指して話しているのは間違いなかった。


「悪いコトだって自覚はあるんだよ、やってる方も。だから受け入れてくれなそうな人の前ではやらないんだ」

「その理屈は……分かる」


地下道に人通りが多ければ、私は自転車を降りるんだから。

バイトが終わる時間を嘘吐いてるのも、遊んでて夜遅くなることを親は許さないだろうと分かってるから。


みんなみたいに何時間もは無理だけど、1時間弱なら……っていうのは、私の中にある勝手な基準だし、もしもうちの親がもっと寛容だったら、嘘だって吐いていないと思う。

ううん、もしそうだったら、私の中の基準もまた、もう少し違ったのかもしれない。


「悪いコトだって、知らないでやってるヤツには教えてやらなきゃだと思うけど。それでもソイツが止める気ないなら、後はこっちがそれを受け入れるか、受け入れられないなら離れるべきだと俺は思ってる」

「止めるんじゃなくて……?」

「何が正しいのかなんて分かんないよ。誰かに自分の基準を押し付ける権利なんてないでしょ。……って、それも俺の考えだけどね」


ああ、なるほど。
タケの個人的な考えとして話されるその理屈を、今度は素直に飲み込むことが出来た。


静かな住宅街の中を、原付のエンジン音とそれに掻き消されないようにちょっとだけ大きくなった話し声が通り抜けていく。

滑るように抜けていく風が、心地好かった。
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