琥珀の記憶 雨の痛み
タケは私をグループから追い出したいんじゃない。
私に選択権を与えていただけなんだ。


そう考えると、むしろ、逆に。

『これが当たり前だと思ってよ。莉緒ちゃん、口には出してないけど、本当は嫌だと思ってるでしょ?』

あの言葉は、引き留めようとしているように思えてくる。


じゃなきゃ……そうだよ、じゃなきゃ、わざわざ追いかけてきて、送ってなんかくれないよね。


「莉緒ちゃんさ、嫌でしょ、煙草。違法だしね。駄目だよね。俺も駄目だと思ってる」

ずばり、そう聞かれると、私は頷くしかない。

少なくとも私は吸いたいとは思わないし、みんなが平気で煙草を吸っているのを見ても疑問に思う。


「でも俺はあいつらが好きだから。一緒にいたいと思ったら、こっちが折れるしかないかなって。よく言うじゃん、惚れた弱み?」

「惚れ……えっ!?」


え、ちょっと、突然すぎて意味が分からない。
あの中に、タケの好きな人がいるってこと?

ハンドルがぐらついて、慌ててタケが自転車を押す足を離した。


「あはは、動揺しすぎ! ごめんごめん、言葉のあや。莉緒ちゃんだって好きでしょ、あいつらのこと」


『あいつら』の中に一瞬、1人だけ例外の顔がちらついたけど。

「……うん、好きだよ。楽しいし」

だから一緒にあの中にいたいと思うし。
――だから、煙草がやだった。


別に恋の話をしているわけでもないのに、はっきり『好き』って口にするのはなんだか照れくさくて、声が小さくなった。

そんな私を見てタケが面白がって笑ってるから、なおさら。
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