琥珀の記憶 雨の痛み
自転車の動きが安定するのを待って、またタケが押してくれる。

もう家が近い。
最初に「市立病院の近く」と言っただけで、タケが迷わずに選ぶ道は私がいつも通る道と同じだった。

中学は学区が違うはずなのに、この辺詳しいのかな。
友達が近くに住んでるとか。


「ねえ莉緒ちゃん。今やってることも違法だけど、これで俺のこと嫌いになる?」

「え、そんな!」


不意に問いかけられて、慌ててぶんぶんと首を振るとタケの肩が揺れた。


「だよね、莉緒ちゃんだって同罪だもんね!」

「うわ、なんかその言い方……!」

タケはなんだか満足したように、楽しそうに笑う。


「これも違法、あれも違法。これは良くてあれは駄目って理屈は通らないよ」

「……!」


ドキリとした。
正論、のような気がする。
返す言葉が出てこなかった。


「はは、ごめん。今のは屁理屈」

そう言いながら、前を向いたままの目は自信ありげに細められていて。

うわ、絶対確信犯だこの人。


拗ねたフリをして押し黙る。
進行方向に目を向ければ、もう私の住むマンションが見えてきていた。


「ユウはさ」

「え、ユウくん?」


突然出てきたその名前にびっくりして聞き返した。

打って変わった真剣な表情には少しだけ憂いが見て取れて、不安になる。


さっきまでのユウくんとのやり取りが、まざまざと思い出された。
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