琥珀の記憶 雨の痛み
「多分莉緒ちゃんの方がアイツより柔軟だから。これは、俺からのお願い」

「お願い……」

また馬鹿の一つ覚えみたいにオウム返しする私を、タケは嗤わなかった。


「鏡みたいなもんだよ。莉緒ちゃんがアイツを苦手って思ってる限り、アイツも莉緒ちゃんのこと、多分認めない。アイツを認めて。そしたらきっと、返ってくるから」


気が付いたら、こくんと頷いていた。

それがタケが作る空気のせいなのかタケが放つ言葉の力なのかは、私にはよく分からなかった。


初めから、あの人は怖かったけれど――もしもタケが言うように、そういう先入観がなかったとしたら。

ユウくんは仕事には真面目だったし、社員さんからも他のバイト仲間からも信頼されている。

いいところが見つからないわけでは、ないのだ。

何故か彼がいつもみんなの中心にいることは認めざるを得ないし、そうさせるだけの何かを、きっと彼は持ってるんだろう。

私が最初から、見ようとしていなかっただけで。


「――ね、そろそろ着く? もう病院近いんだけど、こっちであってる?」

聞かれてハッとした。
道沿いに並ぶ民家の屋根の向こうに、もううちのマンションが見えている。


「あれ、あのマンション」

「そっか……もう着いちゃうね」

「え」


ドキッとしたのは、ちょっと残念そうに聞こえたからで。

――多分そう聞こえたのは、私自身が、もう少しタケと話してたいと思ったからだ。
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