琥珀の記憶 雨の痛み
マンションの敷地に入ると、タケは原付の音が響くのを気遣ってエンジンを切った。
私も自転車から降りて押しながら、並んで歩く。


「あのさ。心配して追いかけてきてくれたんでしょ? ありがとね」

「心配って言うか……まあ、そうなるのかな……いやでも」

タケがぶつぶつ言いながら首を傾げるから、思わず「え?」と聞き返したら。
何を思ったのか彼はその場に原付を停めて、被りっ放しだったメットまで外した。


「俺が嫌だったんだよね。あのまま莉緒ちゃんが、俺らのグループに寄りつかなくなったりするの」


あれ。
雰囲気、が、なんだか……。
こういう時、何て言うのが正解だろう。

何だか甘い、空気が漂っている、ような……気がするんです、が。


「俺莉緒ちゃん好きだし。だから、俺のため?」

「――ッ!」


気のせい、じゃ、ない?
今、随分さらりと告白されたような……あれ、勘違いかな。
そんな深い意味じゃ、ない?


「もしかして莉緒ちゃん、こういうの免疫ない?」

「めん……え、な、何!?」

「はは、すげぇ新鮮な反応。可愛いね」

「かっ!?」


恥ずかしい。
一気に熱を帯びていく頬を冷ますように手で触れてみるけど、まるで効果なしだ。


だけどタケはその様子を楽しむようにしばらく見つめた後に、「ごめん、冗談」と言って笑った。

「冗……ちょっと! からかわないでよね」

真に受けかけた照れ隠しで、頬を膨らませ、片手を振り上げてみせる。


からかわれて笑われて、怒ってるはずなのに。
タケが作る空気は、すごく居心地が良くて楽しかった。
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