琥珀の記憶 雨の痛み
「俺ね、中学テニス部なの。もっと早く莉緒ちゃんと知り合ってたらここ使わせてもらえたのになぁ!」

と、タケがひとつ、彼についての新しい情報を落とした。


「そうなんだ? 私、テニスは全然だめだなぁ。目が悪いから、小さいボールの動きよく見えないの」

体育でやった軟式テニスでは、全然見えないボールめがけて適当に振るラケットからは、空振りか場外ホームランしか生まれなかった。


「それ目が悪いっていうか、動体視力の問題じゃない?」

「ど……で、でもバスケのボールはちゃんと見えるもん!」

「あ、そうか。莉緒ちゃんバスケだったんだっけ。浜中はみんな元バスか」


あとちょっとの距離が惜しくて、心なしか歩調が遅くなる。
気のせいじゃなければ、タケも同じだった。


最近やってる?
やってない、そっちは?
全然。たまにはしたいけどね。
今度みんなでやる?
どっちを? テニス? バスケ?
両方。
バスケ、10人いないと出来ないよ。
うわ、ガチだね。3on3でいいじゃん。


――他愛のない短い言葉のラリーを続けながら、歩みがいくらゆっくりでも、目と鼻の先の2号棟にはすぐに着いてしまうわけで。

駐輪場は棟の裏手で、タケはそこまで着いて来てくれる。

私が狭い駐輪スペースを縫って自転車を置きに行くのを、エントランス前の少し広いところで待っていてくれた。
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