琥珀の記憶 雨の痛み
「ごめん、ありがと待っててくれて」

小走りで近付いてそう言うと、例の癒し系の笑顔が返ってくる。

「これからは送らせて」

当たり前のように、さらりとそう言いながら。

これからはって、まさか。
いつもって意味……って、送ってもらう理由が見当たらないし!


「そんな、悪いよ!」

「え、迷惑?」

「べ、別にそういうわけじゃないけどっ」


タケと話しながらの帰り道は楽しかったし、正直、これからもこれが続くのなら嬉しいと思っている自分がいる。

でも、どうしてもその意図を深読みしちゃう。
むず痒いような……でも嫌じゃ、ない。

あれ、どうして?
私、タケのこと、そういう特別な目で見てたっけ。


半ばパニックの私を置いて、タケは何か思案するように視線を宙に漂わせる。

駐輪場の入口を照らす街灯の明かりの下に引き寄せられた虫たちが、その先で踊っていた。


「あの道、いつも通ってる?」

「え、どの道? あ、うん。いつも今日通った道だけど」

「じゃ、やっぱり送らせて。言ったでしょ、公園のとこ、変な人出るって」


変な……って、お姉さんがあったって言う、痴漢もどきのこと?
なんだ、そういう意味か。


「私、ずっとあの道使ってるから全然平気だよ? 中学の時の塾の帰りとかも夜だったけど。1回もそーゆーのないし」

「とか言って。今日俺のこと不審者と間違えて怖がってたクセに」


痛い所を衝かれて「ぐ」と間抜けな声を漏らすと、タケはにやりと口角を上げた。
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