琥珀の記憶 雨の痛み
「ん? そうだった?」

タケは少し首を傾げながらキョロキョロと黒目を動かす。

あんなに分かりやすかったのに、タケにとってはそんなに気になることじゃなかったのかな。

「全然違ったよ……『愛実』って。私ちょっと……」

「ああ」

私が口ごもったところで、やっと得心が行ったとでもいう感じに彼の口角が上がる。
あ、これ、墓穴掘ったかも。


「どきっとしちゃった?」


――やっぱり。

図星を指されて足を止めた私に、詰め寄るように一歩、二歩。
私は私で馬鹿正直に、反対方向へ逃げるように一歩、二歩。

いや、これ。
地下道の壁際に追い詰められてるだけだし!


「羨ましい? 特別な呼び方」

「べ……別にっ」


ち、近い。
でも、別に退路を塞がれたワケじゃない。

かわそうと思えばかわせるのに、タケと壁に挟まれて動けないのは――動こうとしないのは、なんでなの?


「莉緒」

「――ッ!」


『ちゃん』が取れただけだ。
大して変わらない。

なのにそんな風に、噛みしめるみたいに一音一音大事に発音されると。

困った。
今、絶対顔が……


「ふふ、真っ赤」


――だよね、やっぱり。
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