琥珀の記憶 雨の痛み
「母さん先に寝るからね。アイロン付けっ放しにしないでよ」

寝るのに眩しいからか、和室の引き戸を半分閉めながら分かりきったことを言ってくる。
現実に引き戻しておいて、その言い方って。

「分かってるよう、そんなこと」

思わず反論すると、それが気に障ったのか閉まったはずのふすまがまた開いた。


「あんた、毎日バイトバイトって帰り遅いけど。学校の勉強おざなりになってないでしょうね?」

うわ、しまった藪蛇だ。
だけど、こっちだってたまには言いたいことがある。

「ちゃんとやってるよ! 遅い遅いって言うけどさ、私これでも、みんなより早く帰って来てるんだけど!」


お母さんは厳しすぎる。
前から薄々感じてはいたけど、バイトを始めてから余計に思う。

勉強勉強、門限門限って。
みんなはもっと自由なのに。
私、悪いコトしてるわけじゃないのに!


「みんなって誰、言ってみなさいよ」

冷やりと、声のトーンが下がった。
良くない傾向だ。

だけど、ずっと我慢してきたこっちの勢いも止まらない。
冷静には話せない。


「バイト仲間だよ! ケイとかナツとかメグとか、中学の友達がいるって話したじゃない。他にも新しい友達がいるけど、どうせ名前なんて言ったって覚えないでしょうお母さんは!」


叩きつけるように放った言葉に、お母さんは怯みもしなかった。
それどころか蔑むような冷たい目で見てくる。


「それで? その『みんな』は残って何してるのよ」

「何……って、おしゃべりとか」

「そう言うの、世間一般では夜遊びって言うのよ」
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