琥珀の記憶 雨の痛み
不意に脳裏をよぎったのは、未だに苦手なあの男の言葉だった。


『アンタさぁ。見下してんだろ、俺らのこと』


バレてる。
見透かされてる。
私自身が穢いと思う、染み付いた価値観が。

……恥ずかしい。
事実、だからだ。

あの時、どうしようもなく腹が立ったのに何も言い返せなかったのも――今、お母さんと言い合いになって逃げてきたのと同じだ。

認めたくない自分の裏側を、見せつけられてしまったから。


『ここじゃ異端なんだよアンタ。そういうの気付かない鈍さって、どうなの』


ユウくんが剥き出しの敵意で私を攻撃したその言葉は、タケ……尚吾くん、のフォローで克服した気になっていた。

気にしないようにして、あれは私個人に向けられた敵意ではないと思おうとして、結局その後私自身が何かをして変わったわけではないのに。


こんなことしても、何の気休めにもならない。
根本が変わるわけではない、と、分かっているけれど。

アイロン台の上で待っているスカートの裾と、熱を発し続けるアイロンを交互に見つめて――、ひと折り分だけ、丈を上げようと決めたのは。

穢い自分を否定していたい私の、ただの意地で、ただの自己満足だ。


『こちら側』と『あちら側』――無意識にあるその境界線を、少しでも無くしたくて。
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