琥珀の記憶 雨の痛み
雨に濡れながら、丘の上にある学校から坂を下って駅まで。
このご時世未だに無人の小さな駅のホームには、同じ富岡高校の制服が疎らに散らばっている。

富岡は部活動も盛んだし、受験が近付いた3年生は学校に残って勉強していたりで、この時間に帰宅部が駅に押し寄せていることは少ないのだと、バスケ部を辞めてから気付いた。


そもそもが電車通学には不便な立地で、よほどの土砂降りじゃなければみんな自転車を使うのだ。

原付通学は、一応学校からは禁止されている。
富岡がいわゆる優等生集団と言ってもそれなりのやんちゃはいて、ごくたまに学校の傍に原付を隠している学生がいるのも知っているけれど。


一高はきっと原付通学もフリーなんだろうな。
尚吾くんのトコも……彼は普段から原付みたいだし。
今日くらいの天気なら自転車なんだろうか。
自転車だったら……今日は一緒に帰れないかもしれない。
あれ、おかしいな。
昨日みたいに帰りは並んで歩けるかと思って電車にしたのに、失敗だったのかも。


そんなことを考えている間にも、湿気を孕んだスカートの裾が気になって頻繁に確認してしまう。
丁寧にアイロンしておいて良かった。
プリーツは折り目が綺麗なまんまだ。
……この小さな変化に、誰も気付いてはくれないけれど。

ほんっと、ただの自己満足に終わりそう。

結局昨日の衝動がただのお母さんに対する反抗だったのかなんなのか、自分でもよく分からなくなってきてしまった。

結構手間かかったんだけどな、と、今日何度目かも分からないため息が漏れた頃、ようやく4両編成の電車がホームに滑り込んでくる。

がらがらの電車に、富岡の学生がパラパラと乗り込んでいく。
別々のドアから、別々の車両へと。

席は沢山空いているのに、スカートが気になってしまって結局ずっと立っていた私は……中途半端だ、色々と。
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