琥珀の記憶 雨の痛み
商品ごとのバーコードの位置を感覚で覚えた。

牛乳パックは側面下、生肉・鮮魚・惣菜などトレーに入ってるのは上面、お菓子は大抵裏面。

バーコードがない商品はタッチパネルから探す。

その配列は商品に入れ替えがあるたびに変わるらしいけど、定番品の位置はしっかり叩き込んだ。


お札は向きを揃えて小指と薬指ではさんで、人間の頭部分を親指で押さえて反対の手で1枚ずつはじいて数える。

最初の頃は何度やっても指がつりそうだったけど、もう大分スムースだ。

クレジットや商品券の処理、現金との合わせ技が来ても大丈夫。


接客用語はもう空で言える。

流れも完璧。

なのに。


「んー、一回裏に戻ろっか」

後ろからじっと観察していた三橋さんが、たった1人お客様を接客しただけでレジに停止板を置いた。

「……駄目でしたか」

「ははは」

どうやらまだ、合格が出ない。
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