臆病者の鬼遊び
七海子は、教室の後ろの方で、机を並べている男の子達に悟られないように、コソコソ歩いた。
だが、すぐに一人に見付かった。
「おう、七海子!」
びくりとなる。
一人に見付かれば、一瞬で周囲に伝染する。
「木崎夫人!」
続けて、また別の男の子が、親しげな様子で――けど、心無いことを、言った。
「今日も、そいつに愛妻弁当持ってくのかよ……」
……冗談だって、言われたくない。
こんな、恥ずかしいこと……。
やめて、と言いたかった。
だけど、声は喉の奥でつっかえて、苦しい吐息にしかならなかった。
教室が、しんとなる。
歩みを止めてしまったこと、さっさと否定しなかった事を後悔した。