臆病者の鬼遊び
それでも、彼女が示したほんの少しの反応に、彼は何故かほっとしていた。
「立てるか?」
手を貸すと、七海子は大人しく立ち上がった。
その手があたたかくて、倫太郎は奇妙な感覚を覚えた。
思えば、こんなふうに誰かにそっと触れたことは、無かったかもしれない。
いつだって自分は、誰かを憎むように、あるいは嘲笑うように、接してきた……。
倫太郎は、気恥ずかしそうに――しかし優しく言った。
「まあ……一応、今はこっちの家に来られて、せいせいしてるけどな……。
本家から離れられて、気が楽になった。
だから、……お前は別に、泣かなくていいんだよ」
気遣ってくれているのだろうか?
七海子は、分からないながらも、精一杯笑ってみせた。