臆病者の鬼遊び
しかし、唇が触れ合う刹那、突然心臓を突き破るような乾いた音が響いた。
――ガラガラガラ!
玄関の引き戸を開けた、花代さんである。
慌てて離れたと同時に、七海子が目を覚ました。
掌でぐりぐりと目をこすりながら、呑気に間延びした声で、
「あれぇ、花代さん……?
明日帰ってくるんじゃなかったの?
……って、うおっ! 倫太郎君だ!」
玄関にいる花代に驚き、何故か傍にいた倫太郎に驚き、しかし彼女は安心しきったように、笑むのだった。
「おかえりなさい」
花代さんは、飛び込んできた光景に一瞬言葉を失ったが、いつもと変わらない様子の七海子と、
明らかに動揺している倫太郎の姿を見て、未遂か……と悟り、
「ただいま。二人とも」
七海子と同じように、笑った。