黒太子エドワード~一途な想い
兄弟の意見の相違
「兄上……」
そんな彼におずおずと声をかけたのは、8歳の次男のジョンであった。
気付けば、妹達もじっと彼を見ていた。
「何だ? お前達も同じことを思っておるのだろう?」
「いえ、僕は違いますよ、兄上」
「じ、ジョン?」
目を丸くするトマスに、それまで何も言わなかった弟が、落ち着いた様子で語りだした。
「兄上、貴族は普通、政略結婚をすると聞いております。僕と同じ年の子でも、既に親の決めた婚約者がいる者もおりますし……」
「だから、何だというんだ?」
「僕達は、今まで幸せだったと思うんです。父上と母上は、政略結婚ではなく、愛で結ばれ、母上が他の伯爵と結婚させられそうになった時も、父上を選ばれたでしょう?」
「ああ。だからこそ、父上の葬式の後すぐ、再婚を決めたのが許せないのだ!」
トマスがそう言うと、ジョンは冷静にこう言った。
「僕は、だからこそ、母上には幸せになって頂きたいと思うのです」
「幸せだと? 父上が亡くなられたばかりだというのに、か?」
「ええ。だからこそ、です」
ジョンの言葉に、トマスは顔をしかめて、首を横に振った。
「だからこそ、だと……? 分からんな」
「じゃあ、兄上にお聞き致します。父上が亡くなられたので、ケント伯は、兄上が継がれるんですよね? 一人で大丈夫ですか?」
「それは……」
これには、流石のトマスも視線を落とした。
年が若くても、伯爵の地位と領地は継げる。だが、それをうまく管理出来るかどうかは、別問題であった。
「後見人が必要だということか?」
「はい」
ジョンが頷くと、トマスはため息をついた。
「それは、私も認める。まだ10歳の私に、領地の管理がすぐ出来るとは思えんからな……。だが、それと、母上の再婚は、話が違うであろう?」
「そうでしょうか? イングランドの王太子が後見というのは、かなり有利だと思いますが?」
「それはそうだろうが、しかし……」
「その上、母上と幼馴染で、母上のことをずっと想っておられた故に、独身でいらしたのですよ? 母上にとって、これ以上の良縁があるとお思いですか?」
「それは……」
そう言いかけると、トマスはチラリと黒太子を見た。
黒い巻き毛に、同じ色の口髭。そして、澄んだ青い瞳。
その目は、真っ直ぐ彼を見つめていた。
『何か聞きたいことがあるのなら、何でも聞いてくれ。言いたいことも、全てちゃんと聞こう』
口には出さずとも、黒太子の目はそう言っているように見えた。
「……無い」
トマスは、小さくそう言った。
「許してくれるのだな? 我々の結婚を」
心底嬉しそうにそう言う黒太子に、幼いトマスは苦笑した。
「貴方程のお方なら、私達の承諾など、最初から要らなかったでしょうに」
「そうはいかない! やはり、君達の承諾も得ねば、幸せにはなれんだろう。それに、もし、私とジョアンの間に子が出来れば、君たちの弟になると同時に、このイングランドの未来の王にもなるのだからな」
「何ともまぁ、気の早い……」
トマスが苦笑しながらそう言うと、黒太子は微笑んだ。
「私は、君たちの母上を手に入れる為に14年も待ったのだ。気がせくのも当然なのさ!」
「では……」
そう言うと、トマスは真っ直ぐ黒太子を見た。
「母上のことをちゃんと幸せになって下さいよ?」
「当たり前だ」
黒太子が微笑みながらそう言うと、トマスは目を閉じた。
「その言葉、信じますからね!」
そう言う彼の頬には、涙がつたって落ちた。
そんな彼におずおずと声をかけたのは、8歳の次男のジョンであった。
気付けば、妹達もじっと彼を見ていた。
「何だ? お前達も同じことを思っておるのだろう?」
「いえ、僕は違いますよ、兄上」
「じ、ジョン?」
目を丸くするトマスに、それまで何も言わなかった弟が、落ち着いた様子で語りだした。
「兄上、貴族は普通、政略結婚をすると聞いております。僕と同じ年の子でも、既に親の決めた婚約者がいる者もおりますし……」
「だから、何だというんだ?」
「僕達は、今まで幸せだったと思うんです。父上と母上は、政略結婚ではなく、愛で結ばれ、母上が他の伯爵と結婚させられそうになった時も、父上を選ばれたでしょう?」
「ああ。だからこそ、父上の葬式の後すぐ、再婚を決めたのが許せないのだ!」
トマスがそう言うと、ジョンは冷静にこう言った。
「僕は、だからこそ、母上には幸せになって頂きたいと思うのです」
「幸せだと? 父上が亡くなられたばかりだというのに、か?」
「ええ。だからこそ、です」
ジョンの言葉に、トマスは顔をしかめて、首を横に振った。
「だからこそ、だと……? 分からんな」
「じゃあ、兄上にお聞き致します。父上が亡くなられたので、ケント伯は、兄上が継がれるんですよね? 一人で大丈夫ですか?」
「それは……」
これには、流石のトマスも視線を落とした。
年が若くても、伯爵の地位と領地は継げる。だが、それをうまく管理出来るかどうかは、別問題であった。
「後見人が必要だということか?」
「はい」
ジョンが頷くと、トマスはため息をついた。
「それは、私も認める。まだ10歳の私に、領地の管理がすぐ出来るとは思えんからな……。だが、それと、母上の再婚は、話が違うであろう?」
「そうでしょうか? イングランドの王太子が後見というのは、かなり有利だと思いますが?」
「それはそうだろうが、しかし……」
「その上、母上と幼馴染で、母上のことをずっと想っておられた故に、独身でいらしたのですよ? 母上にとって、これ以上の良縁があるとお思いですか?」
「それは……」
そう言いかけると、トマスはチラリと黒太子を見た。
黒い巻き毛に、同じ色の口髭。そして、澄んだ青い瞳。
その目は、真っ直ぐ彼を見つめていた。
『何か聞きたいことがあるのなら、何でも聞いてくれ。言いたいことも、全てちゃんと聞こう』
口には出さずとも、黒太子の目はそう言っているように見えた。
「……無い」
トマスは、小さくそう言った。
「許してくれるのだな? 我々の結婚を」
心底嬉しそうにそう言う黒太子に、幼いトマスは苦笑した。
「貴方程のお方なら、私達の承諾など、最初から要らなかったでしょうに」
「そうはいかない! やはり、君達の承諾も得ねば、幸せにはなれんだろう。それに、もし、私とジョアンの間に子が出来れば、君たちの弟になると同時に、このイングランドの未来の王にもなるのだからな」
「何ともまぁ、気の早い……」
トマスが苦笑しながらそう言うと、黒太子は微笑んだ。
「私は、君たちの母上を手に入れる為に14年も待ったのだ。気がせくのも当然なのさ!」
「では……」
そう言うと、トマスは真っ直ぐ黒太子を見た。
「母上のことをちゃんと幸せになって下さいよ?」
「当たり前だ」
黒太子が微笑みながらそう言うと、トマスは目を閉じた。
「その言葉、信じますからね!」
そう言う彼の頬には、涙がつたって落ちた。