黒太子エドワード~一途な想い
ジャン2世、ロンドンへ
「どうも、自分がもう一度捕虜になろうとしているらしいのでございます。自分がロンドンに戻れば、アンジュー公ルイが戻らなくてもいいと思ったようで……」
「どういうことだ? 折角自由の身になったというのに、自分からわざわざ戻ろうとするなど、考えられん!」
訳が分からないと言いたげに、黒太子が頭を左右に振ると、トマスも苦笑した。
「ええ。私も理解に苦しみます。まぁ、殿下があまり窮屈な想いをされないよう、気を使っておられましたので、ロンドンの生活が居心地よかったというのもあるかもしれませんね」
「良いのか悪いのか、微妙なところだな」
黒太子が苦笑しながらそう言うと、トマスも苦笑しながら頷いた。
「殿下がイングランド国内での小旅行も許可された上に、サロンも開かれていたのです。色んな貴婦人とも交流を持たれておられたとも聞いております。ここは、殿下のお心遣いが実を結んだと考えるべきでございましょう」
「ふ……。まぁ、そうしておくか」
そう言うと、黒太子は鼻で笑った。
「ティファーヌ!」
その頃、先日、黒太子とトマスの会話い出てきた「ブルドック」こと、ベルトラン・デュ・ゲクランは、ようやく解放されて、愛する婚約者の元に戻っていた。あの石造りの、こじんまりした城に。
「ベルトラン! 良かったわ、元気そうで!」
そう言いながらそのベルトランに抱きしめられたティファーヌの方は、少し痩せた気がした。
対するベルトランの方は、益々恰幅がよくなったように見えた。
「待たせたな! 明日にでも、ここで式を挙げよう!」
「まぁ、そんなに急がなくても、久しぶりに帰って来られたんだから、数日はゆっくりなさったらどうなんですの?」
「ダメだ! ずっと待っていたんだ! 今すぐにでも、挙げたいんだ!」
そう言いながらティファーヌを抱きしめる腕に、ベルトランが力を入れると、彼女は幸せそうに微笑んだ。
「分かりましたわ。では、そうしましょう。実は、ドレスはすでにアンヌが用意してくれていますし、司祭様にも話はしてありますから、問題は無いでしょう」
「じゃあ、明日で決まり、だな!」
そう言うと、ベルトランはティファーヌの両足を持ち上げた。いわゆる「お姫様だっこ」の形であった。
だが、そんなことをする彼は、顔をしかめていた。
「少し軽くなっちまったか? 大丈夫か、奥方?」
「だ、大丈夫ですわ!」
お姫様だっこに加え、突然「奥方」と呼ばれたことに動揺し、真っ赤になってティファーヌはそう言うと、その状態から抜け出そうと足をばたつかせた。
「こら! ばたばたするな! 落としてしまって、怪我でもしたら、どうするんだ! 三国一の花嫁が台無しだろうが!」
その言葉に、耳まで真っ赤になったティファーヌの動きが止まった。
「ベルトラン……。三国一の花嫁って……」
真っ赤な顔のまま、ティファーヌがそう呟いて彼を熱く見つめると、彼はにかっと笑った。
「さぁ、行くぞ!」
そう言ったかと思うと、彼はホールの真ん中の大きな階段を速足で駆け上がって行ったのだった。
──その翌日、朝からバタバタしたものの、本当にベルトランはティファーヌと近くの教会で結婚式を挙げ、晴れて夫婦となったのだった。
それから数日は、彼らしく、飲めや歌えの大騒ぎで。
「どういうことだ? 折角自由の身になったというのに、自分からわざわざ戻ろうとするなど、考えられん!」
訳が分からないと言いたげに、黒太子が頭を左右に振ると、トマスも苦笑した。
「ええ。私も理解に苦しみます。まぁ、殿下があまり窮屈な想いをされないよう、気を使っておられましたので、ロンドンの生活が居心地よかったというのもあるかもしれませんね」
「良いのか悪いのか、微妙なところだな」
黒太子が苦笑しながらそう言うと、トマスも苦笑しながら頷いた。
「殿下がイングランド国内での小旅行も許可された上に、サロンも開かれていたのです。色んな貴婦人とも交流を持たれておられたとも聞いております。ここは、殿下のお心遣いが実を結んだと考えるべきでございましょう」
「ふ……。まぁ、そうしておくか」
そう言うと、黒太子は鼻で笑った。
「ティファーヌ!」
その頃、先日、黒太子とトマスの会話い出てきた「ブルドック」こと、ベルトラン・デュ・ゲクランは、ようやく解放されて、愛する婚約者の元に戻っていた。あの石造りの、こじんまりした城に。
「ベルトラン! 良かったわ、元気そうで!」
そう言いながらそのベルトランに抱きしめられたティファーヌの方は、少し痩せた気がした。
対するベルトランの方は、益々恰幅がよくなったように見えた。
「待たせたな! 明日にでも、ここで式を挙げよう!」
「まぁ、そんなに急がなくても、久しぶりに帰って来られたんだから、数日はゆっくりなさったらどうなんですの?」
「ダメだ! ずっと待っていたんだ! 今すぐにでも、挙げたいんだ!」
そう言いながらティファーヌを抱きしめる腕に、ベルトランが力を入れると、彼女は幸せそうに微笑んだ。
「分かりましたわ。では、そうしましょう。実は、ドレスはすでにアンヌが用意してくれていますし、司祭様にも話はしてありますから、問題は無いでしょう」
「じゃあ、明日で決まり、だな!」
そう言うと、ベルトランはティファーヌの両足を持ち上げた。いわゆる「お姫様だっこ」の形であった。
だが、そんなことをする彼は、顔をしかめていた。
「少し軽くなっちまったか? 大丈夫か、奥方?」
「だ、大丈夫ですわ!」
お姫様だっこに加え、突然「奥方」と呼ばれたことに動揺し、真っ赤になってティファーヌはそう言うと、その状態から抜け出そうと足をばたつかせた。
「こら! ばたばたするな! 落としてしまって、怪我でもしたら、どうするんだ! 三国一の花嫁が台無しだろうが!」
その言葉に、耳まで真っ赤になったティファーヌの動きが止まった。
「ベルトラン……。三国一の花嫁って……」
真っ赤な顔のまま、ティファーヌがそう呟いて彼を熱く見つめると、彼はにかっと笑った。
「さぁ、行くぞ!」
そう言ったかと思うと、彼はホールの真ん中の大きな階段を速足で駆け上がって行ったのだった。
──その翌日、朝からバタバタしたものの、本当にベルトランはティファーヌと近くの教会で結婚式を挙げ、晴れて夫婦となったのだった。
それから数日は、彼らしく、飲めや歌えの大騒ぎで。