黒太子エドワード~一途な想い
チャンドス、現る
「貴様ら……ブロワ様をこんな姿にしておいて、タダで済むと思うなよ!」
ベルトランはそう叫ぶと、自分の周囲にいた兵士達をギロッと睨みつけた。
「貴様ら全員、ぶっ殺す!」
そう叫ぶと、彼は地面に突き刺した斧を再び手にし、頭上で振り回した。
その瞳は、異様な輝きを放っており、その姿を見た兵士達は皆、ひるんだ。
それを戦に長けたベルトランが見逃すわけが無かった。
彼は「うおーっ!」と叫びながら、ひるんだ兵士達にむかって突っ込んで行ったのだった。
「はぁはぁはぁ……。畜生、次から次へと沸いてきやがって、キリが無ぇ!」
最初に手にしていた斧はすでに柄が折れ、近くにあった槍を使い、それも壊れると剣をふるって戦っていたものの、流石のベルトラン・デュ・ゲクランも体力が尽きようとしていた。
「はぁはぁはぁ……。ブロワ様の仇を討ってやろうと思っていたのによ、これじゃ俺までやられちまいそうだ……。ブロワ様、情けなくてすまねぇ……。ティファーヌ、もう一度お前の顔を見たかったのによ……」
「それならば、見ればよいではないか」
どこか近くでそう言ったのは、落ち着いた低い声だった。
驚いたベルトランがそちらを見ると、白髪の老騎士がいた。
「何だ? イングランドのお偉いさんか?」
それには答えず、ジョン・チャンドスは馬を降りて、ゆっくり彼に近付いて行った。
「そこまで奮戦すれば、もう充分であろう。愛する女の処に戻る為にも、投降せぬか?」
「投降……」
「そうだ。そなたのような勇者、決して悪いようにはせぬ」
腰の剣に手を遣りながらそう言うチャンドスの服は汚れておらず、対するベルトランは血と泥で、全身が汚れ、足元も血のぬかるみで覚束なくなっていた。
──彼はそれだけの人数をたった一人で倒していたのだった。主であるシャルル・ド・ブロワを殺された怒りに任せて。
「けどよ、捕虜をとらねぇってことだったから、ブロワ様も殺されたんじゃないのか?」
「それはそれ、これはこれ、だ。そなたのような勇者をみすみす殺すのは惜しいのでな」
「けっ! そういうことは、もっと早く言ってくれよ! そしたら、ブロワ様だって死なずにすんだかもしれねぇのに!」
「そうだな。だが、亡くなってしまった者は生き返らない。オーセル伯ジャン3世殿は生き残って、既に下っておるぞ。それでは、だめか?」
「オーセル伯なんかじゃダメだ! 俺が仕えていたのは、ブロワ様であって、そんな貴族のことなんざ、知ったこっちゃねぇからな!」
「では、その大事なブロワとやらの家族には誰が伝える?」
そのチャンドスの言葉に、ベルトランの頬がぴくりと動いた。
「そのブロワ殿とやらの遺児の後見人にそなたがならずともよいのか?」
「それは……」
ベルトランは、苦悩で顔を歪ませた。
シャルル・ド・ブロワには、妻ジャンヌ・ド・パンティエーブルとの間に三人の息子と二人の娘がいた。
長男のジャンは既に24歳で、結婚もし、ジャン1世としてシャティヨン領を与えられていた。
次男のギイは、そんなジャンと年があまり変わらず、結婚もしていたが、相続する土地がが無かったので、父と共に戦っていたのだが、既にオーセル伯と共に捕えられていたのだった。
ベルトランはそう叫ぶと、自分の周囲にいた兵士達をギロッと睨みつけた。
「貴様ら全員、ぶっ殺す!」
そう叫ぶと、彼は地面に突き刺した斧を再び手にし、頭上で振り回した。
その瞳は、異様な輝きを放っており、その姿を見た兵士達は皆、ひるんだ。
それを戦に長けたベルトランが見逃すわけが無かった。
彼は「うおーっ!」と叫びながら、ひるんだ兵士達にむかって突っ込んで行ったのだった。
「はぁはぁはぁ……。畜生、次から次へと沸いてきやがって、キリが無ぇ!」
最初に手にしていた斧はすでに柄が折れ、近くにあった槍を使い、それも壊れると剣をふるって戦っていたものの、流石のベルトラン・デュ・ゲクランも体力が尽きようとしていた。
「はぁはぁはぁ……。ブロワ様の仇を討ってやろうと思っていたのによ、これじゃ俺までやられちまいそうだ……。ブロワ様、情けなくてすまねぇ……。ティファーヌ、もう一度お前の顔を見たかったのによ……」
「それならば、見ればよいではないか」
どこか近くでそう言ったのは、落ち着いた低い声だった。
驚いたベルトランがそちらを見ると、白髪の老騎士がいた。
「何だ? イングランドのお偉いさんか?」
それには答えず、ジョン・チャンドスは馬を降りて、ゆっくり彼に近付いて行った。
「そこまで奮戦すれば、もう充分であろう。愛する女の処に戻る為にも、投降せぬか?」
「投降……」
「そうだ。そなたのような勇者、決して悪いようにはせぬ」
腰の剣に手を遣りながらそう言うチャンドスの服は汚れておらず、対するベルトランは血と泥で、全身が汚れ、足元も血のぬかるみで覚束なくなっていた。
──彼はそれだけの人数をたった一人で倒していたのだった。主であるシャルル・ド・ブロワを殺された怒りに任せて。
「けどよ、捕虜をとらねぇってことだったから、ブロワ様も殺されたんじゃないのか?」
「それはそれ、これはこれ、だ。そなたのような勇者をみすみす殺すのは惜しいのでな」
「けっ! そういうことは、もっと早く言ってくれよ! そしたら、ブロワ様だって死なずにすんだかもしれねぇのに!」
「そうだな。だが、亡くなってしまった者は生き返らない。オーセル伯ジャン3世殿は生き残って、既に下っておるぞ。それでは、だめか?」
「オーセル伯なんかじゃダメだ! 俺が仕えていたのは、ブロワ様であって、そんな貴族のことなんざ、知ったこっちゃねぇからな!」
「では、その大事なブロワとやらの家族には誰が伝える?」
そのチャンドスの言葉に、ベルトランの頬がぴくりと動いた。
「そのブロワ殿とやらの遺児の後見人にそなたがならずともよいのか?」
「それは……」
ベルトランは、苦悩で顔を歪ませた。
シャルル・ド・ブロワには、妻ジャンヌ・ド・パンティエーブルとの間に三人の息子と二人の娘がいた。
長男のジャンは既に24歳で、結婚もし、ジャン1世としてシャティヨン領を与えられていた。
次男のギイは、そんなジャンと年があまり変わらず、結婚もしていたが、相続する土地がが無かったので、父と共に戦っていたのだが、既にオーセル伯と共に捕えられていたのだった。