黒太子エドワード~一途な想い
11章 愚かなナバラ王
通行料と共闘
「ふふ……。カスティリャに行くのであれば、我がナバラ領内を通るな? この際だ。しっかり、両方から通行料をぶんどってやれ!」
そう言って上機嫌になったのは「ナバラの悪王」こと、カルロス2世であった。
「それは構いませんが、本当によろしいので?」
少し田舎のアクセントで大柄な男がそう尋ねると、カルロス2世は顔を上げて彼を見た。
長年の不摂生がたたったのか、顔は赤黒くなり、髪も髭もかなり白くなってきてはいるが、着ているものは相変わらず派手だった。
「何だ? 何か文句でもあるのか?」
「文句と言いますか……一緒に来いとは言われないのですか? そのイングランドの王太子様とやらに」
その言葉に、カルロス2世の頬がピクリと動いた。
「そうか……。そっちの心配もあったか……。そうだな……」
そう言うと、彼は顎に手を遣り、目を閉じた。
「そうだ! モーニーを呼べ!」
「モーニー?」
「この間、シャルル5世の傍に居た、ゴツくて、ぼーっとした奴のことだ!」
カルロス2世がイライラしながらそう言っても、男は全く分からないようで首をかしげたが、やがてこう言った。
「要するに、フランス国王様の隣におられるような方なのですね?」
「そう、そうだ!」
「そんな方を簡単に呼べるのですか?」
「うるさい! わしが呼べと言っておるのだ! お前は素直に呼びに行けばよいのだ! ほら、さっさと行かんか!」
そう叫ぶと、カルロス2世は大柄な男に向かって、近くのテーブルの上にあった食器を投げつけた。
上にライ麦パンが載っていたこともあったのか、それは男に当たらず、床に落ちて割れてしまったが、カルロス2世は全く悪びれず、小声で何か毒づき続けた。
「全く、これだから田舎者は……!」
「分かりました。行ってきます」
大男はそう言うと、その場を後にした。
「そうだ! さっさと行けばいいんだ!」
彼がその部屋を後にしても、まだカルロス2世は毒づいていた。
「パウロ、旦那様はやっぱり暴れ回っておられるとね? おさまりそうになかか?」
方言丸出しでカルロス2世の執務室から出てきた大男にそう尋ねたのは、メイド姿のこれまた大きな女であった。背は、それほど高くなかったが、ウエスト周りが大きかった。
「おさまりそうになか。そやけん、行ってくると」
答えるパウロと呼ばれた男も、しっかり方言になっていた。
「行くって、どこに?」
「フランスの王様の所たい」
「そげな所におめえみたいな者が行っても、会うてなんかくれんとよ! 行くだけ無駄たい!」
メイドが目を丸くしながらそう言うと、パウロも苦笑した。
「俺もそう思うと。そやけど、行かんことには、旦那様の機嫌が悪うなるままたい。それに、俺が会うんは、王様やのうて、その傍におる人らしいし……」
「そげなもんか……。まぁ、気ぃつけてな」
「マリアもな。そっちの方が大変そうたい」
「確かにね」
マリアと呼ばれたウエストが身長位ありそうなメイドはそう言うと、苦笑した。
その後、パウロが出てしまうと、その言葉通り、今度はマリアがカルロス2世にあたられるようになり、我慢できなくなって逃げだしてしまったのだった。
そう言って上機嫌になったのは「ナバラの悪王」こと、カルロス2世であった。
「それは構いませんが、本当によろしいので?」
少し田舎のアクセントで大柄な男がそう尋ねると、カルロス2世は顔を上げて彼を見た。
長年の不摂生がたたったのか、顔は赤黒くなり、髪も髭もかなり白くなってきてはいるが、着ているものは相変わらず派手だった。
「何だ? 何か文句でもあるのか?」
「文句と言いますか……一緒に来いとは言われないのですか? そのイングランドの王太子様とやらに」
その言葉に、カルロス2世の頬がピクリと動いた。
「そうか……。そっちの心配もあったか……。そうだな……」
そう言うと、彼は顎に手を遣り、目を閉じた。
「そうだ! モーニーを呼べ!」
「モーニー?」
「この間、シャルル5世の傍に居た、ゴツくて、ぼーっとした奴のことだ!」
カルロス2世がイライラしながらそう言っても、男は全く分からないようで首をかしげたが、やがてこう言った。
「要するに、フランス国王様の隣におられるような方なのですね?」
「そう、そうだ!」
「そんな方を簡単に呼べるのですか?」
「うるさい! わしが呼べと言っておるのだ! お前は素直に呼びに行けばよいのだ! ほら、さっさと行かんか!」
そう叫ぶと、カルロス2世は大柄な男に向かって、近くのテーブルの上にあった食器を投げつけた。
上にライ麦パンが載っていたこともあったのか、それは男に当たらず、床に落ちて割れてしまったが、カルロス2世は全く悪びれず、小声で何か毒づき続けた。
「全く、これだから田舎者は……!」
「分かりました。行ってきます」
大男はそう言うと、その場を後にした。
「そうだ! さっさと行けばいいんだ!」
彼がその部屋を後にしても、まだカルロス2世は毒づいていた。
「パウロ、旦那様はやっぱり暴れ回っておられるとね? おさまりそうになかか?」
方言丸出しでカルロス2世の執務室から出てきた大男にそう尋ねたのは、メイド姿のこれまた大きな女であった。背は、それほど高くなかったが、ウエスト周りが大きかった。
「おさまりそうになか。そやけん、行ってくると」
答えるパウロと呼ばれた男も、しっかり方言になっていた。
「行くって、どこに?」
「フランスの王様の所たい」
「そげな所におめえみたいな者が行っても、会うてなんかくれんとよ! 行くだけ無駄たい!」
メイドが目を丸くしながらそう言うと、パウロも苦笑した。
「俺もそう思うと。そやけど、行かんことには、旦那様の機嫌が悪うなるままたい。それに、俺が会うんは、王様やのうて、その傍におる人らしいし……」
「そげなもんか……。まぁ、気ぃつけてな」
「マリアもな。そっちの方が大変そうたい」
「確かにね」
マリアと呼ばれたウエストが身長位ありそうなメイドはそう言うと、苦笑した。
その後、パウロが出てしまうと、その言葉通り、今度はマリアがカルロス2世にあたられるようになり、我慢できなくなって逃げだしてしまったのだった。