黒太子エドワード~一途な想い

ペドロ1世の最期

「何? イングランドの王太子がアキテーヌに向かった、だと?」
 黒太子エドワードが妻子を伴い、イングランド軍を引き連れてアキテーヌに戻り始めたと部下から報告を受けると、エキゾチックで派手なタイルの敷き詰められた執務室でペドロ1世はそう言い、ニヤリとした。
「やっと金だの領地だのと馬鹿げたことを言うのを諦めおったか! そうだ、それでよいのだ! この国の全ては、わしのものなのだからな!」
 足を組み、派手な椅子の肘お気に肘を載せた、黒髪の巻き毛の男はそう言うと、再びニヤリとした。
「陛下、放置しておいて、本当によろしいのでございますか? 黒太子殿下の後ろ盾があったからこそ、あのエンリケを追い出せたのではありませんか?」
 そう言ったのは、「キッパー」と呼ばれる独特な皿のような帽子を被った男であった。
 ユダヤ人を文官として雇ったペドロ1世の周囲には、こういう男性が何人かいた。
「そうかもしれんが、もうわしは、この国の王に返り咲いたのだ。もうあの金や領地をよこせとうるさい男の助けなど、要らぬわ!」
「そうだとよいのですが……」
 ユダヤ人の男がそう言うと、ペドロ1世はムッとした表情で彼を睨みつけた。
「そんなことを心配する暇があるのなら、さっさと仕事をしろ! エンリケとつるんでわしに対抗した貴族達から領地を没収するのだ!」
「は、はいっ!」
 ユダヤ人の男はそう返事をすると、その場をすぐに後にした。

 だが───この後、1年程で、その文官の男が心配していた通り、エンリケとシャルル5世は再び同盟し、トレド条約に署名をした。
 その結果、エンリケは陸上での軍事援助をしてもあい、シャルル5世はカスティリャ艦隊を借り受けることが出来た。
 そして、1369年、エンリケは再度、カスティリャ王国に侵攻し、モンティエルの戦いが起こったのだった。
 そこで、ペドロ1世は亡くなってしまう。
 一説によると、エンリケによって捕らえられた後に惨殺されたとも言われているが、定かではない。
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