黒太子エドワード~一途な想い
12章 黒太子、金策尽きる

かさむ借金

 一方、黒太子はというと、アキテーヌに戻り、そこで暮らし始めたものの、カスティリャまでの遠征費用は出なかったので、借金はかさんでいた。
 が、一度アキテーヌでしていた贅沢な暮らしはなかなかやめられずにいた。
「あなた、カスティリャへの遠征費用の支払いもありのでしょう? 少しは慎まれてはどうですの?」
「君やリチャード達に不自由な想いをさせろというのか!」
 黒太子はそう言うと、目の前の机をドンと叩いた。
 が、すぐに咳き込んでしまう。
「あなたがそういう状態ですのに、パーティ等無理でしょう?」
「それをせずにいようとも、生活の質は落とさんぞ!」
 まだ咳き込みながらそう言う黒太子に、ジョアンはため息をついた。
「そんなことにこだわるより、もっとするべきことがあるでしょう。ここは、親イングランドの土地といっても、周りはフランス。敵地なのよ?」
「そのフランスのやり方を真似てやる!」
 黒太子はそう言うと、ニヤリとした。
 病のせいか、目の周囲がくぼみ、その奥で光る目の色が不気味に見えた。
 ジョアンは次第に変わってきている夫の様子に、ため息をつくしかなかった。
 まだ赤ん坊のリチャードは、そんな両親の微妙な雰囲気を察したのか、大人しく泣かないでいた。

 しばらくすると、黒太子はその言葉通り、破綻をきたした財政の再建の為に、新たな税をアキテーヌ公領に課した。
 炉税、または「かまど税」と言われるもので、かまどの数により税金を課すというものであった。
 彼にしてみれば、かまどの大きさや数と言うものは、その家族の人数や収入によって違ってくるので、大きければ税金を増やしても問題無いだろうと考えて実行に移したのであった。
 当時、彼の敵のフランス王シャルル5世は、「タイユ」と呼ばれる人頭税、「エード」と呼ばれる消費税、「ガベル」と呼ばれる塩税の3種類を民衆に課していた。
 それもあって、黒太子は炉税をアキテーヌに課したとて、反発されるとは思わなかったのだった。
 だが、実際には、かなり反発を買ってしまい、パリ高等法院に提訴されてしまったのだった。

 元々、アキテーヌ地方が親イングランド派であったのは、イングランドとの羊毛貿易で潤っていたからであった。
 が、その潤った分を炉税などで黒太子に奪われ、彼の暮らしに消えてしまうのでは元も子もない。───ということで、パリ高等法院に提訴したのであった。イングランド派だというのに、フランス王管轄の司法機関に頼るというのは矛盾しているのだが。
 そして、黒太子エドワードは、弁明する為に出頭を命じられたのだった。
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