黒太子エドワード~一途な想い
シャルル5世の「読み」
「安心せよ。奴は、おそらく動かぬわ!」
パリ高等法院の役人が青い顔でシャルル5世の前に出ると、シャルル5世はそう言って笑った。
「そ、そうでしょうか………?」
「ああ。まず、間違いない。奴は、カスティリャ王国に遠征して帰ってからというもの、ずっと病の床にあり、以前、ボルドーの宮廷で行なっていたトーナメントでさえ一度も開いておらんらしいからな」
「何と……! そうでしたか………」
「そんな奴が、パリまで来れるわけがないのさ!」
そう言うと、髭を生やし始めたシャルル5世はニヤリとした。
そして、その「読み」通り、黒太子エドワードは動かなかった。いや、「動けなかった」といった方が正しかっただろう。
そんな黒太子の状況を見て、シャルル5世は1369年5月9日、アキテーヌ公領の没収宣言を行った。
それは実質上の宣戦布告で、これにより百年戦争が再開されたといってよかった。
翌1370年、ポンヴァヤンの戦いが起こり、例の悪王カルロス2世もイングランド軍の一員として出撃した。
が、肝心の黒太子はそれでも参戦せず、まだ病の床にあったのだった。
そのせいか、イングランド軍は敗退し、またしてもカルロス2世はシャルル5世に屈服したのであった。
「本当に懲りるということを知らん、愚か者だな」
5年程前にもオーレの戦いにおいて、ベルトラン・デュ・ゲクランが捕虜になった際、どさくさに紛れてノルマンディーの領地を回復し、それをもってシャルル5世と交渉に臨んでいた。
その2年後のナヘラの戦いで、黒太子が自分の土地を通るかもしれないと知ると、わざと怪我をする為にオリヴィエ・ド・モーニーを貸せと、とんでもないことを言ってきたりもしていた。
「どこまでいっても、小物は小物だ。もう相手になど、しとうはないな」
既に32歳となり、見た目の貫禄もついてきたシャルル5世はそう言うと、年を経ても色白の顔を歪ませた。
この時、彼と王妃、ジャンヌ・ド・ブルボンの間には、6人の子供が生まれていたが、そのうちの既に4人は早逝してしまっていた。
それでも、後にシャルル6世となる3番目の息子は元気に育ち、その下にはマリーという妹もいた。
そして、王妃ではなく、愛妾のピエット・ド・カジネルに産ませたジャン・ド・モンテギューも無事に育っていた。
「では、どうなさいますので?」
そう尋ねたのは、大柄で、顎鬚を伸ばした男、オリヴィエ・ド・モーニーであった。
「無論、あやつの領地を没収する! あのような小物に搾取されるだけでは、民も哀れなだけだからな」
シャルル5世はそう言うと、ニヤリとした。
「では、今すぐに………」
「いや、今はよい」
その言葉に、モーニーは目を丸くした。
「まだ動きませんので?」
「黒太子の動きが気になるからな。今少し、様子を見る」
「病で動けないのでは?」
パリ高等法院の役人が青い顔でシャルル5世の前に出ると、シャルル5世はそう言って笑った。
「そ、そうでしょうか………?」
「ああ。まず、間違いない。奴は、カスティリャ王国に遠征して帰ってからというもの、ずっと病の床にあり、以前、ボルドーの宮廷で行なっていたトーナメントでさえ一度も開いておらんらしいからな」
「何と……! そうでしたか………」
「そんな奴が、パリまで来れるわけがないのさ!」
そう言うと、髭を生やし始めたシャルル5世はニヤリとした。
そして、その「読み」通り、黒太子エドワードは動かなかった。いや、「動けなかった」といった方が正しかっただろう。
そんな黒太子の状況を見て、シャルル5世は1369年5月9日、アキテーヌ公領の没収宣言を行った。
それは実質上の宣戦布告で、これにより百年戦争が再開されたといってよかった。
翌1370年、ポンヴァヤンの戦いが起こり、例の悪王カルロス2世もイングランド軍の一員として出撃した。
が、肝心の黒太子はそれでも参戦せず、まだ病の床にあったのだった。
そのせいか、イングランド軍は敗退し、またしてもカルロス2世はシャルル5世に屈服したのであった。
「本当に懲りるということを知らん、愚か者だな」
5年程前にもオーレの戦いにおいて、ベルトラン・デュ・ゲクランが捕虜になった際、どさくさに紛れてノルマンディーの領地を回復し、それをもってシャルル5世と交渉に臨んでいた。
その2年後のナヘラの戦いで、黒太子が自分の土地を通るかもしれないと知ると、わざと怪我をする為にオリヴィエ・ド・モーニーを貸せと、とんでもないことを言ってきたりもしていた。
「どこまでいっても、小物は小物だ。もう相手になど、しとうはないな」
既に32歳となり、見た目の貫禄もついてきたシャルル5世はそう言うと、年を経ても色白の顔を歪ませた。
この時、彼と王妃、ジャンヌ・ド・ブルボンの間には、6人の子供が生まれていたが、そのうちの既に4人は早逝してしまっていた。
それでも、後にシャルル6世となる3番目の息子は元気に育ち、その下にはマリーという妹もいた。
そして、王妃ではなく、愛妾のピエット・ド・カジネルに産ませたジャン・ド・モンテギューも無事に育っていた。
「では、どうなさいますので?」
そう尋ねたのは、大柄で、顎鬚を伸ばした男、オリヴィエ・ド・モーニーであった。
「無論、あやつの領地を没収する! あのような小物に搾取されるだけでは、民も哀れなだけだからな」
シャルル5世はそう言うと、ニヤリとした。
「では、今すぐに………」
「いや、今はよい」
その言葉に、モーニーは目を丸くした。
「まだ動きませんので?」
「黒太子の動きが気になるからな。今少し、様子を見る」
「病で動けないのでは?」