黒太子エドワード~一途な想い

黒体子、逝く

「そうなんだ………。神様にも父上が必要だってことなんだね………。兄上と同じように………」
「そうなんでしょうね………」
 ジョーンが涙ながらにそう言った時だった。その黒太子が「うっ!」と言ったかと思うと咳き込み、血の塊を吐いたのは。
 それ自体は、いつものことであったので、慣れた手つきでジョアンと侍女が後始末をした。
 黒太子自身は、その後ぐったりとベッドに倒れこんだ。そして、動かなかった。
 寝息も聞こえないその様子に、リチャードが心配して声をかけた。
「父上?」
 それでも反応が無かったので、彼は父の体をゆすってみた。
 が、それでも反応は無く、彼の腕はだらりと垂れた。
「父上!」
 リチャードのその叫びに、ジョアンは急いで夫の脈をとった。
「嘘……。エドワード………」
 そう呟くように言った彼女の目にも、涙が溢れていた。
「そんな!」
 長男のトマスが脈をとってみたが、何も感じられなかった。
「嫌だ! 父上ーっ!」
 幼いリチャードの悲痛な叫びが辺りに響き渡り、王宮の次の主になるはずである人物の死を告げた。

 その死から1年を待たずして、父王エドワード3世もこの世を去った。
 呆けたようになっていても、最愛にして最も頼みとしていた長男の死を悟っていたのかもしれない。
 享年64歳。現代からすると、定年は過ぎても、まだ元気な年での死であった。
 不思議なことに、その数年後には、フランス王シャルル5世も亡くなる。こちらは、まだ42歳という若さであった。
 彼らと共に百年戦争前期という舞台に立ったベルトラン・デュ・ゲクランも同じ1380年に亡くなっている。シャルル5世より2ケ月早く、60歳で。
 ───こうして、百年戦争前期で活躍した者達は、黒太子亡き後、次々にこの世を去っていたが、残っている者もいた。その一人が、黒太子の弟、ランカスター公ジョンと黒太子の息子、リチャードであった。
 リチャードは、エドワード3世の死後、リチャード2世として即位するが、叔父であるランカスター公ジョンとエドマンドが摂政という形で彼を支えることとなる。
 当然、そういう形は波乱を呼ぶのだが、それは又、別のお話で───。

   <終わり>
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