黒太子エドワード~一途な想い
初陣
「殿下、どうかご無理だけはなさいませぬよう……」
幼い頃から彼のお目付け役として孫と祖父位、年の離れた王太子エドワードを見てきたジョン・チャンドスは、黒光りのする真新しい鎧に身を包んだ黒髪の少年をみながらそう言った。
「大丈夫だ、チャンドス。私とて、早死にするつもりはないので、無茶はせん」
そう答える黒髪の少年は、幼馴染の少女、ジョアン・オブ・ケントに振られた時より一回り大きくなり、落ち着いていた。
後にその容貌や身に着けている鎧の色等から「黒太子(こくたいし)」と呼ばれるようになる王太子エドワードの、これが初陣であった。
「殿下は下馬騎士隊を率い、高台にて全体の様子を把握されておられれば宜しいのです。くれぐれも、今のお言葉をお忘れなきよう」
「分かっておる! 何度も申すな、チャンドス!」
まだ若い一六歳の王太子はそう言うと、むこうを向いた。
幼いころから宮廷のマナーを含め、剣や弓の手ほどきもしてくれて、「師匠」と慕ってはいるものの、口うるさいのはかなわないと思ってきている、ちょうど反抗期の年頃の少年でもあった。
父上は、この二年後の一八歳の時に、おばあさまとその愛人のロジャーを逮捕し、ロジャーに至っては処刑をされたと聞いている。せめて、王太子として恥ずかしくない戦いをせねば!
一六歳の王太子が心の中でそう呟いた時、角笛が聞こえ、太鼓の音もしたかお思うと、彼らの傍にいた長弓兵達が一斉に空に矢を射かけ始めた。
天高く射かけられたそれは、丘の下からこちらに向かってこようとする騎馬隊めがけて落ちて行き、敵騎士の数人が倒れるのが見えた。
──それが、後にクレシーの戦いと呼ばれる戦いの始まりであった。
幼い頃から彼のお目付け役として孫と祖父位、年の離れた王太子エドワードを見てきたジョン・チャンドスは、黒光りのする真新しい鎧に身を包んだ黒髪の少年をみながらそう言った。
「大丈夫だ、チャンドス。私とて、早死にするつもりはないので、無茶はせん」
そう答える黒髪の少年は、幼馴染の少女、ジョアン・オブ・ケントに振られた時より一回り大きくなり、落ち着いていた。
後にその容貌や身に着けている鎧の色等から「黒太子(こくたいし)」と呼ばれるようになる王太子エドワードの、これが初陣であった。
「殿下は下馬騎士隊を率い、高台にて全体の様子を把握されておられれば宜しいのです。くれぐれも、今のお言葉をお忘れなきよう」
「分かっておる! 何度も申すな、チャンドス!」
まだ若い一六歳の王太子はそう言うと、むこうを向いた。
幼いころから宮廷のマナーを含め、剣や弓の手ほどきもしてくれて、「師匠」と慕ってはいるものの、口うるさいのはかなわないと思ってきている、ちょうど反抗期の年頃の少年でもあった。
父上は、この二年後の一八歳の時に、おばあさまとその愛人のロジャーを逮捕し、ロジャーに至っては処刑をされたと聞いている。せめて、王太子として恥ずかしくない戦いをせねば!
一六歳の王太子が心の中でそう呟いた時、角笛が聞こえ、太鼓の音もしたかお思うと、彼らの傍にいた長弓兵達が一斉に空に矢を射かけ始めた。
天高く射かけられたそれは、丘の下からこちらに向かってこようとする騎馬隊めがけて落ちて行き、敵騎士の数人が倒れるのが見えた。
──それが、後にクレシーの戦いと呼ばれる戦いの始まりであった。