黒太子エドワード~一途な想い
フィリッパの恋心
黒太子エドワードの父親で、息子より長生きしてしまうエドワード三世。
彼は、王妃、フィリッパ・オブ・エノーとの間に七人もの子供をもうける。
とはいえ、晩年は若い愛人のアリス・ペラーズにのめりこみ、実権を次男のジョン・オブ・ゴーントにとられてしまうが。
どうやら、親子といえど、かなり性格は違っていたらしい。
もっとも、彼の場合は、一五歳の時(一三二七年)母イザベルの愛人であったマーチ伯ロジャー・モーティマーに父が廃位されるという、とんでもないことが起こっていたのだが──。
「私は、あやつらの操り人形で終わったりなんかせんぞ!」
一三二七年、一五歳でイングランド国王に即位はしたものの、実権は母とその愛人に握られていた。
そういう状況だったので、王宮内でもあまり言いたいことが言えなかった。
それでも、何とか自室に戻ると、エドワードはそう言って傍にあった机を蹴飛ばした。
「時期を待つのよ、エドワード」
そんな彼の姿を少し離れた長椅子に座って見ていた身なりの良い少女がそう言うと、まだ一五歳の少年は顔をしかめた。
「そんなことくらい、わざわざ君に言われずとも、分かってるさ! 父上の二の舞になる気は無いからな!」
「エドワード……」
長椅子にゆったり腰かけたままの少女が困った表情で彼の名を呼ぶと、彼は自嘲じみた笑みを浮かべた。
「慰めなら、要らないぞ」
「誰がそんなことを言うものですか! あなたは、そこまでお馬鹿さんじゃないでしょう?」
「……前から一度聞いてみたかったのだが……」
じっと身なりが良く、優雅な物腰で長椅子に腰かけている少女を見ながらエドワードがそう言うと、少女は初めて微笑んだ。
「何なの? 何か聞きたいことがあるなら、早く聞いてちょうだい」
「何故、そんなに此処に通ってくる?」
その問いにフィリッパは目を丸くし、やがて笑った。
「そんなにおかしいか? 普通の女なら、一応名前だけの王妃でも喜ぶかもしれないが、君の場合は、そんなものなど無くても困らないだろう?」
「まぁ……そうね」
エドワードより2歳年下で、まだ一三歳のエノー伯の娘、フィリッパは、そう言うと困った表情になった。
エノー伯という伯爵の血筋だけあって、彼女はエドワードの遠縁の従妹でもあった。
「見合いの話もきていると聞いたが?」
「まったくもう、どこからそういう話を聞いてくるのよ!」
「本当なのか?」
エドワードがそう尋ねると、彼女の両瞳がキラリと光った。
「気になる?」
「それは、まぁ……。私の所にちょくちょく来るせいで、嫁の貰い手がなくなると。責任を感じるしな」
「じゃあ、責任をとってくれるの?」
「そ、それはつまり、私と……?」
真っ赤になってうまく言葉が出てこないエドワードに、フィリッパはニコリと微笑んだ。
「そんな今すぐどうこうして、とか無茶はことは言わないわ。でも、これだけは覚えておいて欲しいの。私は何があっても、どこに居ても、あなたの味方だってことだけは、ね」
「うむ……」
エドワードは赤い顔のままうつむくと、それだけ言って黙ってしまった。
だが、この時、彼が彼女を正妻に迎える決心をしたことを、ちゃんとフィリッパ本人は分かっていた。「又従妹」という立場上、時のローマ教皇に赦しを貰えないと結婚出来ないのだが、それも貰ってくれると信じていたのだった。
そして、彼が国王に即位した翌年の一三二八年、フィリッパは一四歳で彼に嫁いだのだった──。
彼は、王妃、フィリッパ・オブ・エノーとの間に七人もの子供をもうける。
とはいえ、晩年は若い愛人のアリス・ペラーズにのめりこみ、実権を次男のジョン・オブ・ゴーントにとられてしまうが。
どうやら、親子といえど、かなり性格は違っていたらしい。
もっとも、彼の場合は、一五歳の時(一三二七年)母イザベルの愛人であったマーチ伯ロジャー・モーティマーに父が廃位されるという、とんでもないことが起こっていたのだが──。
「私は、あやつらの操り人形で終わったりなんかせんぞ!」
一三二七年、一五歳でイングランド国王に即位はしたものの、実権は母とその愛人に握られていた。
そういう状況だったので、王宮内でもあまり言いたいことが言えなかった。
それでも、何とか自室に戻ると、エドワードはそう言って傍にあった机を蹴飛ばした。
「時期を待つのよ、エドワード」
そんな彼の姿を少し離れた長椅子に座って見ていた身なりの良い少女がそう言うと、まだ一五歳の少年は顔をしかめた。
「そんなことくらい、わざわざ君に言われずとも、分かってるさ! 父上の二の舞になる気は無いからな!」
「エドワード……」
長椅子にゆったり腰かけたままの少女が困った表情で彼の名を呼ぶと、彼は自嘲じみた笑みを浮かべた。
「慰めなら、要らないぞ」
「誰がそんなことを言うものですか! あなたは、そこまでお馬鹿さんじゃないでしょう?」
「……前から一度聞いてみたかったのだが……」
じっと身なりが良く、優雅な物腰で長椅子に腰かけている少女を見ながらエドワードがそう言うと、少女は初めて微笑んだ。
「何なの? 何か聞きたいことがあるなら、早く聞いてちょうだい」
「何故、そんなに此処に通ってくる?」
その問いにフィリッパは目を丸くし、やがて笑った。
「そんなにおかしいか? 普通の女なら、一応名前だけの王妃でも喜ぶかもしれないが、君の場合は、そんなものなど無くても困らないだろう?」
「まぁ……そうね」
エドワードより2歳年下で、まだ一三歳のエノー伯の娘、フィリッパは、そう言うと困った表情になった。
エノー伯という伯爵の血筋だけあって、彼女はエドワードの遠縁の従妹でもあった。
「見合いの話もきていると聞いたが?」
「まったくもう、どこからそういう話を聞いてくるのよ!」
「本当なのか?」
エドワードがそう尋ねると、彼女の両瞳がキラリと光った。
「気になる?」
「それは、まぁ……。私の所にちょくちょく来るせいで、嫁の貰い手がなくなると。責任を感じるしな」
「じゃあ、責任をとってくれるの?」
「そ、それはつまり、私と……?」
真っ赤になってうまく言葉が出てこないエドワードに、フィリッパはニコリと微笑んだ。
「そんな今すぐどうこうして、とか無茶はことは言わないわ。でも、これだけは覚えておいて欲しいの。私は何があっても、どこに居ても、あなたの味方だってことだけは、ね」
「うむ……」
エドワードは赤い顔のままうつむくと、それだけ言って黙ってしまった。
だが、この時、彼が彼女を正妻に迎える決心をしたことを、ちゃんとフィリッパ本人は分かっていた。「又従妹」という立場上、時のローマ教皇に赦しを貰えないと結婚出来ないのだが、それも貰ってくれると信じていたのだった。
そして、彼が国王に即位した翌年の一三二八年、フィリッパは一四歳で彼に嫁いだのだった──。