黒太子エドワード~一途な想い
強情な息子
「……分かりました、母上。教皇猊下に手紙を出せばよろしいのですね?」
「あら、やってくれるのね?」
フィリッパが目を輝かせてそう言うと、黒太子は困った表情のまま、頷いた。
「はいはい、やりますよ! 他ならぬ、母上のお頼みですからね! ですが、今の教皇猊下の噂は、ご存じですか? フランスの貴族出身なだけあって、贅沢三昧の上に、宮殿に女性の出入りも絶えないとか……」
「……そうらしいわね」
フィリッパはそう言うと、困った表情で、視線を逸らした。
「何か、気に入りそうな毛皮でも一緒に送らねばならないでしょうな」
それに気付いても、黒太子がそう言うと、フィリッパは苦笑した。
「でも、既に白テンの毛皮は、1千枚持ってるって噂よ?」
「では、男のあしらいに長けている女性でもつけましょう」
黒太子のその言葉に、母は目を丸くした。
「ちょっと、それって、娼婦をつけるってこと? 町造りをエドワードから任されているとは聞いていたけれど、まさかそこまで慣れてしまっているとは……」
母がそう言ってため息をつくと、黒太子は苦笑した。
「違いますよ、母上! 誤解です、誤解! 娼婦ではなく、酒場の女将です! 娼婦の知り合い等、いませんよ! ですが、酒場には、町造りを任されているので、たまには顔を出していますが、私とは分からぬよう、安物を着るようにしています」
「そう? まぁ、あなたも年頃だから、そういう女性の一人や二人位、いてもおかしくはないと思うのだけれど……」
そう言いながら、チラチラと見るフィリッパに、黒太子は苦笑した。
「いません!」
「そう? まぁ……変な女にひっかからなければ、それでいいわ」
「だから、いませんって、母上!」
黒太子が苦笑しながら、声を荒げてそう叫んだ時であった。
広場らしくなってきた場所で、わぁっという声が上がったのは。
「何かしら? あなたのお父様の演説かしら?」
そう言って、フィリッパが声のした方を見ると、黒太子も頷いた。
「おそらく、そうでしょう。流石、父上は実績があるだけあって、違います。私も、早くああなりたいものです」
その言葉に、フィリッパは微笑んだ。
「あら、なれるわよ。あの人の息子なんだし。でも、まぁ、その為にはまず、結婚しないとね!」
その母の言葉に、黒太子の顔はたちまち暗くなった。
「母上、申し訳ありませんが、私は、自分の本当に気に入った者としか結婚する気がありませんので、後継者をお望みでしたら、弟達にお任せ下さい」
「まぁ、本当に強情ね! 一体、誰に似たのかしら?」
「父上と母上、両方でしょう。私は、二人の子なんですから」
「まぁ! なら、弟達が成人するまで、ちゃんと王太子としての義務は果たせるわね?」
「結婚以外でしたら」
低い声でそう言う黒太子に、フィリッパは苦笑した。
「はいはい、分かったわ! とにかく、教皇猊下への手紙の件、頼んだわよ!」
彼女はそう言うと、強情な息子から離れ、最愛の夫の方へと歩いて行ったのだった。
「やれやれ、クレメンス六世か……。難敵だな」
その後ろ姿を見送りながら黒太子がそう呟いた時、兵士達の歓声があがった。どうやら、エドワード三世が妻フィリッパを紹介したようだった。
「あら、やってくれるのね?」
フィリッパが目を輝かせてそう言うと、黒太子は困った表情のまま、頷いた。
「はいはい、やりますよ! 他ならぬ、母上のお頼みですからね! ですが、今の教皇猊下の噂は、ご存じですか? フランスの貴族出身なだけあって、贅沢三昧の上に、宮殿に女性の出入りも絶えないとか……」
「……そうらしいわね」
フィリッパはそう言うと、困った表情で、視線を逸らした。
「何か、気に入りそうな毛皮でも一緒に送らねばならないでしょうな」
それに気付いても、黒太子がそう言うと、フィリッパは苦笑した。
「でも、既に白テンの毛皮は、1千枚持ってるって噂よ?」
「では、男のあしらいに長けている女性でもつけましょう」
黒太子のその言葉に、母は目を丸くした。
「ちょっと、それって、娼婦をつけるってこと? 町造りをエドワードから任されているとは聞いていたけれど、まさかそこまで慣れてしまっているとは……」
母がそう言ってため息をつくと、黒太子は苦笑した。
「違いますよ、母上! 誤解です、誤解! 娼婦ではなく、酒場の女将です! 娼婦の知り合い等、いませんよ! ですが、酒場には、町造りを任されているので、たまには顔を出していますが、私とは分からぬよう、安物を着るようにしています」
「そう? まぁ、あなたも年頃だから、そういう女性の一人や二人位、いてもおかしくはないと思うのだけれど……」
そう言いながら、チラチラと見るフィリッパに、黒太子は苦笑した。
「いません!」
「そう? まぁ……変な女にひっかからなければ、それでいいわ」
「だから、いませんって、母上!」
黒太子が苦笑しながら、声を荒げてそう叫んだ時であった。
広場らしくなってきた場所で、わぁっという声が上がったのは。
「何かしら? あなたのお父様の演説かしら?」
そう言って、フィリッパが声のした方を見ると、黒太子も頷いた。
「おそらく、そうでしょう。流石、父上は実績があるだけあって、違います。私も、早くああなりたいものです」
その言葉に、フィリッパは微笑んだ。
「あら、なれるわよ。あの人の息子なんだし。でも、まぁ、その為にはまず、結婚しないとね!」
その母の言葉に、黒太子の顔はたちまち暗くなった。
「母上、申し訳ありませんが、私は、自分の本当に気に入った者としか結婚する気がありませんので、後継者をお望みでしたら、弟達にお任せ下さい」
「まぁ、本当に強情ね! 一体、誰に似たのかしら?」
「父上と母上、両方でしょう。私は、二人の子なんですから」
「まぁ! なら、弟達が成人するまで、ちゃんと王太子としての義務は果たせるわね?」
「結婚以外でしたら」
低い声でそう言う黒太子に、フィリッパは苦笑した。
「はいはい、分かったわ! とにかく、教皇猊下への手紙の件、頼んだわよ!」
彼女はそう言うと、強情な息子から離れ、最愛の夫の方へと歩いて行ったのだった。
「やれやれ、クレメンス六世か……。難敵だな」
その後ろ姿を見送りながら黒太子がそう呟いた時、兵士達の歓声があがった。どうやら、エドワード三世が妻フィリッパを紹介したようだった。