黒太子エドワード～一途な想い

贅沢三昧のクレメンス六世

　教皇クレメンス六世──。
　先ほど、黒太子エドワードが呟いたその教皇の名は、クレシーの戦いより四年程前にローマ教皇になっていた。
　元は、フランス出身の貴族で、本名はピエール・ロジェ　Pierre Rogerと言った。
　フランス出身だからか、「ローマ教皇」であるにもかかわらず、ローマには住まず、アヴィニョンで贅沢三昧の暮らしをしていた。
　その様子は「どんな君主も、金遣いの派手さでかなう者は無く、気前の良さでも匹敵する者はいない」とか「教皇の宮殿は……時間を問わず、常に女性を歓迎したという」と、ジョン・ケリー（野中邦子訳）も『黒死病～ペストの中世史』（中央公論）の中で書いている。
　カレー包囲戦が行われていた一三四六年には、以前の教皇の代から対立している神聖ローマ皇帝ルートヴィヒ四世を廃位し、カール四世を皇帝に擁立していた。
　贅沢三昧の上に、神聖ローマ皇帝の首まですげかえたのだから、どれだけ権力を持っていたのか、分からない。
　クレシーの戦いから約三年後の一三四九年に、そのクレメンス六世により、ジョアンとソールズベリー伯ウィリアム・モンタキュートの結婚の無効が宣言され、同時にトマス・ホランドの結婚の有効性が同時に認められた。
　贅沢三昧で、やりたい放題のローマ教皇にそんな宣言を出させたというのは、かなり高くついたのではないかと推測される。
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