黒太子エドワード~一途な想い
三章 カレー包囲戦

飢えるカレーの民

 ──話は、カレー包囲戦に戻る。
 明けて、一三四七年の四月には、イングランド側に多くの補給品や船、兵士も到着し、戦力はクレシーの戦いの時以上となった。
 そのお蔭で、海上封鎖も完璧となり、カレーの町はジェノヴァ船等による補給を受けられない状態になったのだった。
 ……そうなってしまうと、あとは早い。
 二ケ月後の六月には、カレーへの食糧や水の補給が完全に途絶え、飢える者がでてきたのである。勿論、最下級の貧しい者から。
 そして、七月、補給の為のカレー船十隻を含むフランス船団がイングランド軍によって追い払われると、いよいよ食糧不足が深刻になり、口減らしをしようという結論が出てしまったのである。
 それにより、下層階級の貧しい子供や老人が五百人程、城壁から外に追い出されてしまった。
 その五百人は「城壁の外で、飢え死にした」とも言われているが、ジャン・フロワサールの『年代記』によると、「エドワード三世は、食事と金を与えて、通行を許した」と書かれている。

 ここで出て来たジャン・フロワサール Jean Froissart の作品は、騎士道文化を記した文化的傑作とも言われているが、一方で、戦闘におかえる人数に誇張が見られ、パトロンになった人の立場により、記述が偏向するとも言われている。
 彼は、後に、エドワード三世の王妃フィリッパに、宮廷詩人兼歴史記録係として仕えたので、エドワード三世に優位な書き方になったのかもしれない。
 ただ、この時、カレー城内の市民が切羽詰まっていたのは本当で、七月三一日にその知らせを聞いたフィリップ六世は、カレー近くに陣を敷いたのだった。
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