黒太子エドワード~一途な想い

ポワティエの戦い

 その頃、黒太子エドワードはというと、1355年の停戦終了と共にボルドーに派遣され、アキテーヌ地方においてのイングランドの領土を拡大し、フランス南部の大半をその手中に収めていた。
 そこから北上して、もっと領土を拡大しながら進もうとしたが、物資が足らず、その補給の為にも、騎行戦術を再び行うようにとの命令が下っていた。
「又、騎行戦術か……。父上も嫌な役目を押し付けて下さる……」
 黒髪に、黒光りのする鎧を着た、背の高い青年に成長した黒太子エドワードはそう言うと、苦笑した。
「確かに、地方に駐屯する守備隊を撃破するのは必要なことだが、普通に落としていけばいいだけで、略奪や焼き討ちは必要ではなかろう?」
 苦笑しながらそう言う黒太子の傍らで、ジョン・チャンドスは困った表情で、首を横に振った。
「殿下、それは、理想論ですな。現実は、そんなに甘くないですぞ。物資が残り少なくなれば、兵達の士気も下がり、狼藉を働く者も増えましょう」
「分かっておる! 分かっておるが、どうにも好きになれんのだ! こういうやり方は!」
「まぁ、それは分かりますが……」
 チャンドスはそう言うと、ため息をついた。
 まだお若い殿下に、自分を抑えて命令に従え、という方が酷、か……。まぁ、頭では分かっておられるので、そのうち従われるだろうが……。

 そのチャンドスの読み通り、黒太子はやがて、父、エドワード3世の命令通り、騎行戦術を行ない、物資を補給していった。
 が、そんなイングランド軍をフランス側が放置しておく訳が無かった。
 フランス王フィリップ6世は既に病死していたので、その嫡男ジャンが「ジャン2世」として即位し、黒太子の軍と対することになったのだった。
 ヴァロア朝2代目の国王のジャン2世は、この時、既に37歳であった。
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