黒太子エドワード~一途な想い
エティエンヌ・マルセル
──今からさかのぼること7年程前の1350年、エティエンヌ・マルセルは、彼がまだ35歳であった時、既にノートルダム大聖堂の参事会長になっていた。
そして、その4年後には、パリ商人頭になり、実質的にパリ市長も同然の身であった。
つまり、平民の中で最も権力を持ち、勢いもあった男であったのである。
そんな彼は、実は、2年前、王太子シャルルの父、今や捕虜となってしまったジャン2世が三部会を招集した時も、国王と対立し、税収を管理する委員会の設置を提案していた。
が、その時はまだ、国王の勢いがあり、相手にされなかったのだった。
しかし、今回は違った。
「イケる! 今回は、イケるぞ!」
少し白いものが混じり始めた髪を、暖かそうな帽子で隠した男は、その薄緑色の瞳を輝かせてそう呟いた。
彼の周囲では、既に彼が先程叫んだ言葉に呼応し、
「顧問会議! 我らの為の会議の設立を求める!」
等と叫ぶ男達がいた。
「平民風情が、調子に乗りおって!」
その様子を一段上の所で見ていた王太子シャルルは、顔をしかめると、小さくそう呟いた。
まだ少し震えていたが、それが怒りによるものなのか、それとも体の調子が悪いだけなのかは分からなかった。
だが、それが騒ぐ平民達に聞こえていたら、きっと彼の命は無かったというだけは、確かであった。
「静かに! 顧問会議の設立をそなたらが望んでおるのは分かった! だが、その顧問会議とやらで、具体的に何をしたいのだ?」
先程、平民達が騒ぐのを鎮めた年配の聖職者がそう尋ねると、騒いでいた平民達は一斉にマルセルを見た。
彼は、それを待っていたといわんばかりに、一段上に上った。
といっても、王太子シャルルの居る場所のように、広い場所で、ステージのようになっているわけでもなく、」果物が入っていた木箱の上に乗っただけであった。
「コホン。我々が要求するのは、租税徴収、軍隊の召集、休戦調印等を三部会で承認してのみ通すという方向で、顧問会議はその為のことを論じるものであってほしいと思っております」
マルセルがはっきりそう言うと、年配の聖職者は頷いた。
「なるほど。そなたらの主張は、分かった。それを文書にすることは出来るか?」
「はい、出来ます」
マルセルが即答して頷くと、聖職者も頷いた。
「では、次回までに作成して、提出するように」
「分かりました」
マルセルはそう言うと、木箱から降りた。
その途端に彼は、周囲にいた平民達に囲まれて、担がれてしまった。まるで、英雄か何かのように。
その様子を見ていた聖職者は、まだ一段上の所に立っていた青い顔の王太子シャルルの所にそっと近寄って行った。
「王太子殿下、今のうちです。お逃げ下され!」
その言葉に小さく頷くと、彼はそっとそこを後にしたのだった。
その場には、他にも聖職者や貴族等もいたが、皆、平民達の盛り上がりに圧倒され、誰も王太子がそこを後にしたことに気付かなかったのだった。
そして、その4年後には、パリ商人頭になり、実質的にパリ市長も同然の身であった。
つまり、平民の中で最も権力を持ち、勢いもあった男であったのである。
そんな彼は、実は、2年前、王太子シャルルの父、今や捕虜となってしまったジャン2世が三部会を招集した時も、国王と対立し、税収を管理する委員会の設置を提案していた。
が、その時はまだ、国王の勢いがあり、相手にされなかったのだった。
しかし、今回は違った。
「イケる! 今回は、イケるぞ!」
少し白いものが混じり始めた髪を、暖かそうな帽子で隠した男は、その薄緑色の瞳を輝かせてそう呟いた。
彼の周囲では、既に彼が先程叫んだ言葉に呼応し、
「顧問会議! 我らの為の会議の設立を求める!」
等と叫ぶ男達がいた。
「平民風情が、調子に乗りおって!」
その様子を一段上の所で見ていた王太子シャルルは、顔をしかめると、小さくそう呟いた。
まだ少し震えていたが、それが怒りによるものなのか、それとも体の調子が悪いだけなのかは分からなかった。
だが、それが騒ぐ平民達に聞こえていたら、きっと彼の命は無かったというだけは、確かであった。
「静かに! 顧問会議の設立をそなたらが望んでおるのは分かった! だが、その顧問会議とやらで、具体的に何をしたいのだ?」
先程、平民達が騒ぐのを鎮めた年配の聖職者がそう尋ねると、騒いでいた平民達は一斉にマルセルを見た。
彼は、それを待っていたといわんばかりに、一段上に上った。
といっても、王太子シャルルの居る場所のように、広い場所で、ステージのようになっているわけでもなく、」果物が入っていた木箱の上に乗っただけであった。
「コホン。我々が要求するのは、租税徴収、軍隊の召集、休戦調印等を三部会で承認してのみ通すという方向で、顧問会議はその為のことを論じるものであってほしいと思っております」
マルセルがはっきりそう言うと、年配の聖職者は頷いた。
「なるほど。そなたらの主張は、分かった。それを文書にすることは出来るか?」
「はい、出来ます」
マルセルが即答して頷くと、聖職者も頷いた。
「では、次回までに作成して、提出するように」
「分かりました」
マルセルはそう言うと、木箱から降りた。
その途端に彼は、周囲にいた平民達に囲まれて、担がれてしまった。まるで、英雄か何かのように。
その様子を見ていた聖職者は、まだ一段上の所に立っていた青い顔の王太子シャルルの所にそっと近寄って行った。
「王太子殿下、今のうちです。お逃げ下され!」
その言葉に小さく頷くと、彼はそっとそこを後にしたのだった。
その場には、他にも聖職者や貴族等もいたが、皆、平民達の盛り上がりに圧倒され、誰も王太子がそこを後にしたことに気付かなかったのだった。