黒太子エドワード~一途な想い
ギヨーム・カルル
「ギヨーム・カルル?」
エティエンヌ・マルセルは、その名を繰り返すと、顔をしかめた。
「それが、ジャックリーの乱の首謀者なのだな?」
「はい。今のところ、統率している者のようです」
「連絡はとれそうか?」
「何とか……。王太子の方は手を打たないようですので、警戒すべきは、あのナバラ王だけのようですし……」
「又、あいつか!」
マルセルはそういうと、近くにあった机をバンと叩いた。
「ナバラ王」こと「ナバラの悪王」カルロス2世こと、エヴルー伯シャルルは、欲深くて無節操、他人任せの小物であった。
王太子シャルルの父、ジャン2世の時から色々悪さをし、それが故に「邪悪王、悪人王」とも呼ばれた。
実際はそこまでひどくはなく、あくまでも「小物」だったのだが。
1349年に葉は、ナバラ女王ファナ2世(フランス名:ジャンヌ)の死によって、パンプローナを中心に興ったナバラ王国を相続し、その6年前には父エヴルー伯フィリップからエヴルー伯領も相続していた。
そのお蔭で、彼はノルマンディー地方を中心に領地を保有し、それが故にジャン2世によって、ラングドックの司令官にも命じられた。
が、司令官に任じたものの、彼をすぐに牽制しようとしたのか、カスティラ出身のシャルル・ド・ラ・セルダを王軍司令官に任命してしまう。
これがカルロス2世の不満をあおり、1353年12月に、ジャン2世の面前で、ド・ラ・セルダと激しい口論をし、翌1月にはカルロス2世の弟、フィリップ・デヴルー率いる一団がそのド・ラ・セルダを襲い、殺害してしまったのだった。
それに怒ったジャン2世が、エヴルーとナバラに侵攻するも、カルロス2世は黒太子エドワードと同盟して反撃し、マント条約も結ばれるが、1356年にはジャン2世に捕えられ、幽閉されてしまう。
──マルセルが助けたのは、そんな彼であった。無論、自分の味方とする為に。
だが、あいにく、彼は、フランスではエヴルー伯。つまり、貴族であったので、マルセルが手を結ぼうとしているジャックリーの乱を鎮める方に動いてしまったのだった。
「奴は、強いのか?」
「まぁ、イングランドの黒太子と共に戦ったことがあるのですから、農民よりは強いでしょう」
「すぐに鎮圧されてしまいそうか?」
顔をしかめながらそう尋ねるマルセルに、侍従は顔色を変えずに答えた。
「パリ以外の都市は、かなり鎮圧されてきたと聞いております」
「遅かったか……」
マルセルはそう言うとため息をつき、顎に手をやった。
「ならば、あのナバラ王と結ぶ方が早いか……」
「又、あの方を頼られるのですか?」
普段、滅多に感情を表に出さない年配の侍従が、珍しく顔をしかめてそう尋ねると、マルセルは不快感をあらわにした。
「何だ、お前は! 使用人の分際で、私のすることに異を唱えるのか!」
「異を唱えると申しますか……あの方は、ご主人様のお役に立つとは思えませんので……」
「それが余計なことだと言うのだ! お前は、私の命令に従ってさえいればよいのだからな! もうよい! 下がれ! 不愉快だ!」
マルセルはそう言うと、手で侍従を追い払った。
彼はそれに対し顔色も変えず、何も言わずに一礼し、その場を後にしようとした。
「待て! 出来るだけ豪勢な食事を用意しろ! それも、出来るだけ早く、な!」
その命令に侍従は黙って頷くと、その場を後にした。
エティエンヌ・マルセルは、その名を繰り返すと、顔をしかめた。
「それが、ジャックリーの乱の首謀者なのだな?」
「はい。今のところ、統率している者のようです」
「連絡はとれそうか?」
「何とか……。王太子の方は手を打たないようですので、警戒すべきは、あのナバラ王だけのようですし……」
「又、あいつか!」
マルセルはそういうと、近くにあった机をバンと叩いた。
「ナバラ王」こと「ナバラの悪王」カルロス2世こと、エヴルー伯シャルルは、欲深くて無節操、他人任せの小物であった。
王太子シャルルの父、ジャン2世の時から色々悪さをし、それが故に「邪悪王、悪人王」とも呼ばれた。
実際はそこまでひどくはなく、あくまでも「小物」だったのだが。
1349年に葉は、ナバラ女王ファナ2世(フランス名:ジャンヌ)の死によって、パンプローナを中心に興ったナバラ王国を相続し、その6年前には父エヴルー伯フィリップからエヴルー伯領も相続していた。
そのお蔭で、彼はノルマンディー地方を中心に領地を保有し、それが故にジャン2世によって、ラングドックの司令官にも命じられた。
が、司令官に任じたものの、彼をすぐに牽制しようとしたのか、カスティラ出身のシャルル・ド・ラ・セルダを王軍司令官に任命してしまう。
これがカルロス2世の不満をあおり、1353年12月に、ジャン2世の面前で、ド・ラ・セルダと激しい口論をし、翌1月にはカルロス2世の弟、フィリップ・デヴルー率いる一団がそのド・ラ・セルダを襲い、殺害してしまったのだった。
それに怒ったジャン2世が、エヴルーとナバラに侵攻するも、カルロス2世は黒太子エドワードと同盟して反撃し、マント条約も結ばれるが、1356年にはジャン2世に捕えられ、幽閉されてしまう。
──マルセルが助けたのは、そんな彼であった。無論、自分の味方とする為に。
だが、あいにく、彼は、フランスではエヴルー伯。つまり、貴族であったので、マルセルが手を結ぼうとしているジャックリーの乱を鎮める方に動いてしまったのだった。
「奴は、強いのか?」
「まぁ、イングランドの黒太子と共に戦ったことがあるのですから、農民よりは強いでしょう」
「すぐに鎮圧されてしまいそうか?」
顔をしかめながらそう尋ねるマルセルに、侍従は顔色を変えずに答えた。
「パリ以外の都市は、かなり鎮圧されてきたと聞いております」
「遅かったか……」
マルセルはそう言うとため息をつき、顎に手をやった。
「ならば、あのナバラ王と結ぶ方が早いか……」
「又、あの方を頼られるのですか?」
普段、滅多に感情を表に出さない年配の侍従が、珍しく顔をしかめてそう尋ねると、マルセルは不快感をあらわにした。
「何だ、お前は! 使用人の分際で、私のすることに異を唱えるのか!」
「異を唱えると申しますか……あの方は、ご主人様のお役に立つとは思えませんので……」
「それが余計なことだと言うのだ! お前は、私の命令に従ってさえいればよいのだからな! もうよい! 下がれ! 不愉快だ!」
マルセルはそう言うと、手で侍従を追い払った。
彼はそれに対し顔色も変えず、何も言わずに一礼し、その場を後にしようとした。
「待て! 出来るだけ豪勢な食事を用意しろ! それも、出来るだけ早く、な!」
その命令に侍従は黙って頷くと、その場を後にした。