黒太子エドワード~一途な想い
黒太子とナバラ王
「ああ、あの自称ナバラ王とかいう奴のことか! 分かった。もう二度と手を貸したりはしない。父上にもそう伝えておいてくれ」
エドワード3世の部屋を後にすると、エスターはすぐ隣の黒太子エドワードの部屋に寄っていた。
そこでは、心配そうな表情のジョン・チャンドスが、ソファに座って二人の様子を見ていた。
「どっちつかずの日和見主義ですらなく、自身の想いでしか動かぬ、愚か者ですな?」
それまで黙っていたチャンドスが、低い声でそう言うと、黒太子は苦笑した。
「まぁ、そう言うな、チャンドス。そんな男でも、多少は役に立ったことがあるのだ」
「そうでしょうか。信をおくに足らぬ者は、傍におかぬに限りますぞ、殿下」
「そうは言うが、まだ私が信用できるのは、そなた位しかおらぬのだぞ、チャンドス。これから地道に増やしていくしかあるまい?」
「それはそうですが、あの者だけはおやめください」
「分かった、分かった! もう手助けはせんし、傍におくつもりも毛頭無い。それで、よかろう?」
黒太子が「お手上げだ」と言わんばかりに両手を挙げると、まだ厳しい表情でチャンドスは続けた。
「本当に、そのようにお願い致しますぞ、殿下。そうでなければ、私も安心してあの世に行けませんからな!」
「おいおい、安心してあの世に行ってもらっては困るぞ!」
先程までとうって変り、真面目な表情で黒太子がそう言うと、チャンドスは笑った。
「ははは! ご安心下され! まだ当分、死ぬつもりはありませんのでな」
「本当に、頼むぞ、チャンドス!」
ほっとした表情で黒太子がそう言うと、珍しくエスターが口を挟んだ。
「本当に、殿下はお幸せでございますな。チャンドス様のような方がいらっしゃって。出来れば、そこにもう一人加えて頂けますと、ありがたいのですが……」
その言葉に、黒太子とチャンドスが目を丸くして彼を見ると、彼は真面目な表情で続けた。
「実は、私の息子をお傍において頂けないものかと思いまして……」
「ほう……。そなたの息子、とな? ならば、殿下にも忠義を尽くしてくれよう。で、年はいくつなのだ?」
「今年で、14になります」
「ほう! ならば、殿下とも年が近くて、良いですな?」
頷きながらそう言うチャンドスに、黒太子は苦笑した。
「チャンドス、初陣のクレシーからもう何年経っていると思っておる? もう12年だぞ! あの頃、16であった私も、既に28だ」
「まだご結婚はなさっておいでではありませんが」
チャンドスのその言葉に、黒太子はムッとした表情になった。
「あの……」
エスターが遠慮がちに声をかけると、黒太子は慌てて笑顔を作った。
「すまない。君の息子のことであったな? 名は? 名は、何というのだ?」
「それが、その……」
言いよどんだエスターは、ちらりと黒太子を見た。
「何だ? 言えぬ名があるとは、聞いたことがないぞ」
その言葉に決心がついたのか、エスターは口を開いた。
「その……トマスと申します」
「ホランド男爵と同じ名、か……」
黒太子が目を丸くしながらそうつぶやくと、チャンドスは頷いた。
「なるほど。だから、今まで言い出せなかったのだな?」
「はい……」
困った表情でエスターがそう言うと、黒太子は深呼吸をした。
「お前達は、私をいくつだとお思っておるのだ? もう子供の年齢ではないのだぞ!」
エドワード3世の部屋を後にすると、エスターはすぐ隣の黒太子エドワードの部屋に寄っていた。
そこでは、心配そうな表情のジョン・チャンドスが、ソファに座って二人の様子を見ていた。
「どっちつかずの日和見主義ですらなく、自身の想いでしか動かぬ、愚か者ですな?」
それまで黙っていたチャンドスが、低い声でそう言うと、黒太子は苦笑した。
「まぁ、そう言うな、チャンドス。そんな男でも、多少は役に立ったことがあるのだ」
「そうでしょうか。信をおくに足らぬ者は、傍におかぬに限りますぞ、殿下」
「そうは言うが、まだ私が信用できるのは、そなた位しかおらぬのだぞ、チャンドス。これから地道に増やしていくしかあるまい?」
「それはそうですが、あの者だけはおやめください」
「分かった、分かった! もう手助けはせんし、傍におくつもりも毛頭無い。それで、よかろう?」
黒太子が「お手上げだ」と言わんばかりに両手を挙げると、まだ厳しい表情でチャンドスは続けた。
「本当に、そのようにお願い致しますぞ、殿下。そうでなければ、私も安心してあの世に行けませんからな!」
「おいおい、安心してあの世に行ってもらっては困るぞ!」
先程までとうって変り、真面目な表情で黒太子がそう言うと、チャンドスは笑った。
「ははは! ご安心下され! まだ当分、死ぬつもりはありませんのでな」
「本当に、頼むぞ、チャンドス!」
ほっとした表情で黒太子がそう言うと、珍しくエスターが口を挟んだ。
「本当に、殿下はお幸せでございますな。チャンドス様のような方がいらっしゃって。出来れば、そこにもう一人加えて頂けますと、ありがたいのですが……」
その言葉に、黒太子とチャンドスが目を丸くして彼を見ると、彼は真面目な表情で続けた。
「実は、私の息子をお傍において頂けないものかと思いまして……」
「ほう……。そなたの息子、とな? ならば、殿下にも忠義を尽くしてくれよう。で、年はいくつなのだ?」
「今年で、14になります」
「ほう! ならば、殿下とも年が近くて、良いですな?」
頷きながらそう言うチャンドスに、黒太子は苦笑した。
「チャンドス、初陣のクレシーからもう何年経っていると思っておる? もう12年だぞ! あの頃、16であった私も、既に28だ」
「まだご結婚はなさっておいでではありませんが」
チャンドスのその言葉に、黒太子はムッとした表情になった。
「あの……」
エスターが遠慮がちに声をかけると、黒太子は慌てて笑顔を作った。
「すまない。君の息子のことであったな? 名は? 名は、何というのだ?」
「それが、その……」
言いよどんだエスターは、ちらりと黒太子を見た。
「何だ? 言えぬ名があるとは、聞いたことがないぞ」
その言葉に決心がついたのか、エスターは口を開いた。
「その……トマスと申します」
「ホランド男爵と同じ名、か……」
黒太子が目を丸くしながらそうつぶやくと、チャンドスは頷いた。
「なるほど。だから、今まで言い出せなかったのだな?」
「はい……」
困った表情でエスターがそう言うと、黒太子は深呼吸をした。
「お前達は、私をいくつだとお思っておるのだ? もう子供の年齢ではないのだぞ!」