黒太子エドワード~一途な想い
トマス・ホランドの病
「では、ホランド男爵が病で臥せっておられるとお聞きになられても、大丈夫でございますね?」
そう尋ねたのは、エスターだった。
「そう……なのか?」
黒太子はそう聞き返すと、チャンドスを見た。
彼は「知らない」と言いたいのか、黙って首を横に振った。
「確か、弟君も数年前に亡くなり、夫婦でケント伯を継いだのではなかったか?」
「はい。ですが、こうなりますと、嫡男のトマス様がお継ぎにならねばならないかと……」
「ふむ……。ジョアンも苦労が絶えんな……」
そう言うと、黒太子はため息をついた。
「お会いにはなられないのですな?」
釘をさすつもりなのか、チャンドスがそう尋ねると、黒太子は苦笑した。
「行って、どうなる? 私は、医者でもないから治せないし、聖職者でもないから、懺悔を聞くことも出来んぞ」
「それがお分かりなのでしたら、この老骨から申し上げることはありませんな」
チャンドスが満足げに頷きながらそう言うと、黒太子は再び苦笑した。
「だが、知ってしまった以上、黙って放っておくというわけにもいくまい。母上には、ご報告申し上げるぞ。よいな?」
「それは、勿論。弟君を亡くされ、続いて夫君というのでは、心細いでしょうから、王妃様がお気にかけて頂くと、心強いでしょう」
「うむ」
黒太子がそう言って頷くと、エスターが尋ねた。
「では、息子をあちらに向かわせなくてもよろしいのですね?」
「無論だ」
黒太子はそう言って頷いたが、すぐにハッとした表情になった。
「だが、別の所には行ってもらいたい!」
「どこでしょうか?」
「先日、レンヌを防衛したという、ベルトラン・デュ・ゲクランという男のところだ。まだレンヌにおるかどうかは分からんが……」
「ははは! 殿下、よくその名を覚えてらっしゃいましたな!」
チャンドスが豪快に笑いながらそう言うと、黒太子は苦笑した。
「私に何度もその名を口にした張本人が、よくそのようなことを申すな!」
「はっはっは。英雄には、好敵手がつきもの。奴が、殿下にとってのそれになってくれれば、面白いと思ったまでのことですぞ」
「ほう。乱暴者で、見た目が黒いブルドッグだとかいう男が、私の好敵手か?」
「ふふふ。戦の才能は、見た目ではありませんからな」
「ああ、そういえば、女だてらに戦の指揮を執った者もおったな。確か、亡きモンフォールの奥方であったか?」
その言葉に、チャンドスは顔をしかめた。
「もう既に狂ってしまわれたようですがな」
「女だてらに、無茶をしたからだろう」
その言葉に、チャンドスはにやりとした。
「ほう……。女だてらに戦場に現れるのは、何もその奥方に限ったことではございませんが? 確か、国王陛下の奥方様も同じことをなさっておられましたからな」
その言葉に、黒太子は苦笑した。
「母上か……。まぁ、戦に直接参加はなされないが、今回のように戦場まで足は運ばれるな。おそらく、鼓舞しようとなさってのことだろうが……。まぁ、母上のことはあまり言うな、チャンドス」
「そうですな。あまり脱線し過ぎると、エスター殿も困られますからな」
そう言いながらチャンドスがちらりと白いものが髪に交じり始めた男を見ると、彼は作り笑いを浮かべた。
そう尋ねたのは、エスターだった。
「そう……なのか?」
黒太子はそう聞き返すと、チャンドスを見た。
彼は「知らない」と言いたいのか、黙って首を横に振った。
「確か、弟君も数年前に亡くなり、夫婦でケント伯を継いだのではなかったか?」
「はい。ですが、こうなりますと、嫡男のトマス様がお継ぎにならねばならないかと……」
「ふむ……。ジョアンも苦労が絶えんな……」
そう言うと、黒太子はため息をついた。
「お会いにはなられないのですな?」
釘をさすつもりなのか、チャンドスがそう尋ねると、黒太子は苦笑した。
「行って、どうなる? 私は、医者でもないから治せないし、聖職者でもないから、懺悔を聞くことも出来んぞ」
「それがお分かりなのでしたら、この老骨から申し上げることはありませんな」
チャンドスが満足げに頷きながらそう言うと、黒太子は再び苦笑した。
「だが、知ってしまった以上、黙って放っておくというわけにもいくまい。母上には、ご報告申し上げるぞ。よいな?」
「それは、勿論。弟君を亡くされ、続いて夫君というのでは、心細いでしょうから、王妃様がお気にかけて頂くと、心強いでしょう」
「うむ」
黒太子がそう言って頷くと、エスターが尋ねた。
「では、息子をあちらに向かわせなくてもよろしいのですね?」
「無論だ」
黒太子はそう言って頷いたが、すぐにハッとした表情になった。
「だが、別の所には行ってもらいたい!」
「どこでしょうか?」
「先日、レンヌを防衛したという、ベルトラン・デュ・ゲクランという男のところだ。まだレンヌにおるかどうかは分からんが……」
「ははは! 殿下、よくその名を覚えてらっしゃいましたな!」
チャンドスが豪快に笑いながらそう言うと、黒太子は苦笑した。
「私に何度もその名を口にした張本人が、よくそのようなことを申すな!」
「はっはっは。英雄には、好敵手がつきもの。奴が、殿下にとってのそれになってくれれば、面白いと思ったまでのことですぞ」
「ほう。乱暴者で、見た目が黒いブルドッグだとかいう男が、私の好敵手か?」
「ふふふ。戦の才能は、見た目ではありませんからな」
「ああ、そういえば、女だてらに戦の指揮を執った者もおったな。確か、亡きモンフォールの奥方であったか?」
その言葉に、チャンドスは顔をしかめた。
「もう既に狂ってしまわれたようですがな」
「女だてらに、無茶をしたからだろう」
その言葉に、チャンドスはにやりとした。
「ほう……。女だてらに戦場に現れるのは、何もその奥方に限ったことではございませんが? 確か、国王陛下の奥方様も同じことをなさっておられましたからな」
その言葉に、黒太子は苦笑した。
「母上か……。まぁ、戦に直接参加はなされないが、今回のように戦場まで足は運ばれるな。おそらく、鼓舞しようとなさってのことだろうが……。まぁ、母上のことはあまり言うな、チャンドス」
「そうですな。あまり脱線し過ぎると、エスター殿も困られますからな」
そう言いながらチャンドスがちらりと白いものが髪に交じり始めた男を見ると、彼は作り笑いを浮かべた。