黒太子エドワード~一途な想い
ベルトランの求愛
この頃、鎧はチェイン・メイルからプレイト(板金)メイルに、イングランド・フランス両軍共に移行しつつあった。
ベルトラン・デュ・ゲクランの鎧もその大部分が板金で、関節部だけチェイン・メイルで動きやすくなっていた。
イングランドの黒太子エドワードの鎧も基本的には同様であったが、表面が黒光りがしていた、左足の膝下にはガーター騎士団を示すガーターベルトが巻かれていた。
ベルトランの場合は、黒光りというよりは、どう見ても「泥で汚れている」と感じがしていた。
彼は、そんな恰好でティファーヌ・ラグネルに会いに行くと言ったのである。
「恋焦がれてくれている女だといっても、折角会いに行くっていうのに、それはないわな……」
「そうそう! せめて、花くらい持って行かないと!」
その場に居た者達も口々にそう言った。
ベルトランは決して美男ではなかったが、市井の人々に愛着を持ってそんなことを言わせる、不思議な魅力があったと言える。
「そう言うが、俺にとっちゃ、コレが一張羅なんだぜ! これをとっちまったら、寝間着か下着になっちまう!」
ベルトランが口を尖らせながらそう言うと、その近くに居た女が、彼の鎧を持っていた布で拭いた。
気のせいか、少し鎧が綺麗になった気がした。
それを見た他の女達も同様に、手持ちの布やエプロンで鎧を拭いてやった。
「お、おい……」
好意でしてくれていることに大声で異議を唱えるわけにもいかず、ベルトランが困り顔でそう言うと、女達は
「レンヌを守ってくれたお礼だよ」
と言った。
そう言われてしまうと、益々断れず、ベルトランが弟を見ると、彼は当然だとばかりに頷いた。
しょうがない。やらせておくか……。
観念したベルトランが心の中でそう呟き、溜息をついた時であった。
「はい。これ、あげる」
小さな子供がそう言いながら、小さな花束を差し出したのは。
「え……?」
目を丸くするベルトランに、子供は真面目な表情でこう言った。
「女の人に会いに行くときは、ちゃんとこういう花束も持って行かないとダメだよ!」
「お、おう……」
これには、流石のベルトランもそう言って受け取るしかなかった。
「頑張ってね!」
花束を受け取ると、少女はそう言って微笑んだ。
それを見て、周囲の大人達もジェスチャーで「頑張ってこい!」と示す。
「ほんじゃま、ちょっくら行ってくらぁ!」
ベルトランは顔を少し赤らめてそう言うと、その場を後にした。
「まぁ、ベルトランが?」
それからしばらくすると、少し小奇麗になった彼が、子供達から手渡された花束を手に、灰色の石造りの小さな城を訪れていた。
ヴィトレは隣町なので馬を飛ばせばすぐ着いたはずなのだが、彼が着いたのは薄暗くなって来た頃であった。
そのせいか、子供達に渡された小さな花はしおれかかっていたが、それに大輪の花が足されていたので、何とか見れるものになっていた。
どうやら遅くなったのは、その大輪の花を探していたからのようであった。
そこまでのことはまだ知らなくても、愛しい人の訪問に、ティファーヌ・ラグネルは少女のように頬を染めた。
ベルトラン・デュ・ゲクランの鎧もその大部分が板金で、関節部だけチェイン・メイルで動きやすくなっていた。
イングランドの黒太子エドワードの鎧も基本的には同様であったが、表面が黒光りがしていた、左足の膝下にはガーター騎士団を示すガーターベルトが巻かれていた。
ベルトランの場合は、黒光りというよりは、どう見ても「泥で汚れている」と感じがしていた。
彼は、そんな恰好でティファーヌ・ラグネルに会いに行くと言ったのである。
「恋焦がれてくれている女だといっても、折角会いに行くっていうのに、それはないわな……」
「そうそう! せめて、花くらい持って行かないと!」
その場に居た者達も口々にそう言った。
ベルトランは決して美男ではなかったが、市井の人々に愛着を持ってそんなことを言わせる、不思議な魅力があったと言える。
「そう言うが、俺にとっちゃ、コレが一張羅なんだぜ! これをとっちまったら、寝間着か下着になっちまう!」
ベルトランが口を尖らせながらそう言うと、その近くに居た女が、彼の鎧を持っていた布で拭いた。
気のせいか、少し鎧が綺麗になった気がした。
それを見た他の女達も同様に、手持ちの布やエプロンで鎧を拭いてやった。
「お、おい……」
好意でしてくれていることに大声で異議を唱えるわけにもいかず、ベルトランが困り顔でそう言うと、女達は
「レンヌを守ってくれたお礼だよ」
と言った。
そう言われてしまうと、益々断れず、ベルトランが弟を見ると、彼は当然だとばかりに頷いた。
しょうがない。やらせておくか……。
観念したベルトランが心の中でそう呟き、溜息をついた時であった。
「はい。これ、あげる」
小さな子供がそう言いながら、小さな花束を差し出したのは。
「え……?」
目を丸くするベルトランに、子供は真面目な表情でこう言った。
「女の人に会いに行くときは、ちゃんとこういう花束も持って行かないとダメだよ!」
「お、おう……」
これには、流石のベルトランもそう言って受け取るしかなかった。
「頑張ってね!」
花束を受け取ると、少女はそう言って微笑んだ。
それを見て、周囲の大人達もジェスチャーで「頑張ってこい!」と示す。
「ほんじゃま、ちょっくら行ってくらぁ!」
ベルトランは顔を少し赤らめてそう言うと、その場を後にした。
「まぁ、ベルトランが?」
それからしばらくすると、少し小奇麗になった彼が、子供達から手渡された花束を手に、灰色の石造りの小さな城を訪れていた。
ヴィトレは隣町なので馬を飛ばせばすぐ着いたはずなのだが、彼が着いたのは薄暗くなって来た頃であった。
そのせいか、子供達に渡された小さな花はしおれかかっていたが、それに大輪の花が足されていたので、何とか見れるものになっていた。
どうやら遅くなったのは、その大輪の花を探していたからのようであった。
そこまでのことはまだ知らなくても、愛しい人の訪問に、ティファーヌ・ラグネルは少女のように頬を染めた。