黒太子エドワード~一途な想い
8章 黒太子の結婚
ホランドの死
「何? 亡くなった? トマス・ホランドが、か?」
その黒髪と同じく、少しくせのある黒い口髭を伸ばし始めた黒太子エドワードは、その知らせに目を丸くした。
初陣のクレシーの戦いから14年の歳月が経ち、彼も30歳になっていたが、相変わらず初恋のジョアン・オブ・ケントへの想いは、一途のようであった。
「はい。宗祇は、ケント伯領内で済ますようでございますが、参られますか?」
そう尋ねたのは、声変りをしたばかりの少年トマスだった。
「私がここを動くのは……」
「私がおります、殿下」
そう言うと、ジョン・チャンドスは、真っ白になった髭を撫でた。
「チャンドス……」
その顔を見て、黒太子はほっとした表情になった。
「葬式の間位、この老骨が何とか致しましょう。安心して行って来て下され。大体、誰が戦術等をお教えしたとお思いです?」
「ふふ、確かに。チャンドスになら、任せられるな」
そう言うと、黒太子は微笑んだ。
「では、しっかり後を頼んだぞ、チャンドス。トミー、来い!」
そう叫ぶと、彼はまだ幼さの残る少年を連れて、そこを後にしたのだった。
「あなた……。今までありがとう……。どうか、安らかに眠って下さいな……」
それから数日後。
ロンドン郊外のケント伯領内の古い石造りの小さな教会の中で、葬式が厳かに執り行われていた。
喪服のドレス姿も艶やかな未亡人、ジョアン・オブ・ケントがそう言いながら棺に花を供えた時だった。
ドン!
教会の大きな扉が乱暴に開いた音がしたかと思うと、そこには黒光りのする鎧に身を包んだ黒太子エドワードが立っていた。
「エドワード……? 駆けつけてくれたの?」
黒いベールで顔は見えないようにしていたが、ジョアンがそう言うと、彼は短いが、はっきり言った。
「当たり前だろう!」
そして、彼は大股で彼女の傍に歩いて行った。
「大丈夫か、ジョアン?」
「ええ……。去年からずっと体調が悪そうだったので、覚悟はしていたから……」
そう言いながら、ベールの下で懸命に作り笑顔を作ろうとしているのが、黒太子には見えた。
「こんな時に無理するな!」
エドワードはそう言うと、彼女を乱暴に抱きしめた。
「夫が亡くなったというのに、哀しくとも何ともないというのは、妻じゃない! 女ですら無いと思うぞ。だから、無理せず、泣け! 葬式の今泣かずして、一体、いつ泣くと言うんだ?」
黒太子のその言葉に、ジョアンは堰を切ったように号泣した。
黒太子は、ともすれば床に倒れこみそうになる彼女を支え続けた。
やがて、その泣き声につられるかのように、教会のあちこちから泣き声が聞こえ始めた。
「……落ち着いたか?」
古い教会からケント伯の屋敷に戻ると、鎧を脱いだ黒太子はそう尋ねた。
すっかり精悍な男の顔になった黒太子は、うっすらと口髭も生やしていた。
その黒髪と同じく、少しくせのある黒い口髭を伸ばし始めた黒太子エドワードは、その知らせに目を丸くした。
初陣のクレシーの戦いから14年の歳月が経ち、彼も30歳になっていたが、相変わらず初恋のジョアン・オブ・ケントへの想いは、一途のようであった。
「はい。宗祇は、ケント伯領内で済ますようでございますが、参られますか?」
そう尋ねたのは、声変りをしたばかりの少年トマスだった。
「私がここを動くのは……」
「私がおります、殿下」
そう言うと、ジョン・チャンドスは、真っ白になった髭を撫でた。
「チャンドス……」
その顔を見て、黒太子はほっとした表情になった。
「葬式の間位、この老骨が何とか致しましょう。安心して行って来て下され。大体、誰が戦術等をお教えしたとお思いです?」
「ふふ、確かに。チャンドスになら、任せられるな」
そう言うと、黒太子は微笑んだ。
「では、しっかり後を頼んだぞ、チャンドス。トミー、来い!」
そう叫ぶと、彼はまだ幼さの残る少年を連れて、そこを後にしたのだった。
「あなた……。今までありがとう……。どうか、安らかに眠って下さいな……」
それから数日後。
ロンドン郊外のケント伯領内の古い石造りの小さな教会の中で、葬式が厳かに執り行われていた。
喪服のドレス姿も艶やかな未亡人、ジョアン・オブ・ケントがそう言いながら棺に花を供えた時だった。
ドン!
教会の大きな扉が乱暴に開いた音がしたかと思うと、そこには黒光りのする鎧に身を包んだ黒太子エドワードが立っていた。
「エドワード……? 駆けつけてくれたの?」
黒いベールで顔は見えないようにしていたが、ジョアンがそう言うと、彼は短いが、はっきり言った。
「当たり前だろう!」
そして、彼は大股で彼女の傍に歩いて行った。
「大丈夫か、ジョアン?」
「ええ……。去年からずっと体調が悪そうだったので、覚悟はしていたから……」
そう言いながら、ベールの下で懸命に作り笑顔を作ろうとしているのが、黒太子には見えた。
「こんな時に無理するな!」
エドワードはそう言うと、彼女を乱暴に抱きしめた。
「夫が亡くなったというのに、哀しくとも何ともないというのは、妻じゃない! 女ですら無いと思うぞ。だから、無理せず、泣け! 葬式の今泣かずして、一体、いつ泣くと言うんだ?」
黒太子のその言葉に、ジョアンは堰を切ったように号泣した。
黒太子は、ともすれば床に倒れこみそうになる彼女を支え続けた。
やがて、その泣き声につられるかのように、教会のあちこちから泣き声が聞こえ始めた。
「……落ち着いたか?」
古い教会からケント伯の屋敷に戻ると、鎧を脱いだ黒太子はそう尋ねた。
すっかり精悍な男の顔になった黒太子は、うっすらと口髭も生やしていた。