LOZELO



その日の回診に来たのは神崎先生一人で、江口先生の姿はなかった。


「検査、どうだった?」

「気づいたら終わってました」

「ちゃんと寝てた?」

「…多分」

「痛かったでしょ?かなり動いてたから、麻酔追加したんだけど」

「ちょっとだけ、痛かったです」

「結構炎症の範囲が広いし、進行してるからねー」


そんなに軽い感じで言わないでほしい。

こちとら、病気なんてどうでもいいと思ってるのに。


「あとでまた来るよ。それまで休んでて」


検査の話かな。


「紗菜ちゃん!痛かったの?」


神崎先生が部屋を出てすぐ、私と隣のベッドを仕切るカーテンが少しだけ揺れて、開いた。


「ちょっとだけね」

「優奈も最初は痛かったよ!ちょっとだけ泣いちゃったもん」


正直すぎる言葉が、なぜか刺激的だった。

飾らない言葉たちは、優奈ちゃんを子供らしく見せる。

いや、違う。

優奈ちゃんらしく、見せている。


「優奈も来週検査なの!」


こんなにちっちゃい子が、どうしてこんなに明るく病院にいられるんだろう。


「怖くない?」

「もう慣れちゃった。検査の前に飲むお薬は大っ嫌いだけど」


本当に嫌いなんだなって、伝わってくる。


「私も苦手。もっとおいしかったらいいのにね。いちご味とか」

「優奈はねー、バナナ味がいい!」


なぜか笑顔になってしまう。

こんな私に、心を開いてくれるなんて。

申し訳ないような、うれしいような。


「ねぇ、ここ開けててもいい?」


優奈ちゃんの提案を、否定する理由はなかった。


「やったぁ!優奈と紗菜ちゃんのお部屋みたいだね」


その感性が、うらやましかった。
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