LOZELO



***


「さなちゃん、おはよう」


優奈ちゃんはすっかり私に懐き、何もない時間は基本的に一緒にいる。

おはようからおやすみまで。

絵本を読んであげたり、お絵かきに付き合ったり。

看護師さんたちは、姉妹みたいだと微笑ましく思っているみたい。

共通の主治医である神崎先生は、回診の時間が短縮できると喜んだ。

今日は優奈ちゃんが、大腸の検査らしい。

今朝から頑張って、検査前の飲み薬をちょっとずつのどの奥に押し込んでいる。


「紗菜ちゃん、もう飲みたくなーい」

「ちゃんと飲まないと、元気になれないよ?」


優奈ちゃんの退院を決める、大事な検査。

こっそりと教えてくれた石山さんは、とても嬉しそうだった。

入院生活は結構長いらしい優奈ちゃんは、話を聞くと、私が住む町の隣町に住んでいるらしい。

車だと4時間。

気軽に行き来できる距離ではないことを、きっと優奈ちゃんも知っているだろうけれど、寂しいはず。

一人で病気と闘って、明るく振る舞って。

聞けば、来年は小学生。

元気になって、大きなランドセルと黄色い帽子を身に付けて通学する優奈ちゃんが目に浮かんだ。


「江口先生おはよう!」

「おはよう、優奈ちゃん」


江口先生は、回診の後にも必ず私の元を訪れた。

優奈ちゃんが必ずと言っていいほど私と一緒にいるけど、話の対象は完全に私だった。

"優奈ちゃんと私のお部屋"に不似合いの、しわしわ白衣。ぼさぼさ頭。

用があるわけでもないらしく、優奈ちゃんを仲介役に他愛もない話をある程度したら、また来るから、と言って病室を出て行く。

体調のことから始まり、部活は何をやっていたのかとか、学校は楽しいかとか。

答えたくないですと口答えをすると、無理に聞いてこようとはしなかった。

どうせ私の口から何か聞いたって、どうにもならないでしょ。

そんなあきらめが定着した、一週間。
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