文月~平安恋物語
大宮は善成の少将にこう言った。
「あなたの笛がこちらまで聞こえてきました。女房たちが上達したとほめてましたよ」
少将は微笑んだ。
「そうですか。耳の肥えたみなさんにほめられるのは嬉しいな」
声までものびやかで耳触りがよい。
「こちらに、貴方の姪にあたる姫がおりますのよ」
ぼうっと少将を見つめていた貴子は、大宮が自分のことを話しているのに気づき、心臓が縮み上がるほど驚いた。
「ええ、聞き及んでおります」
しかも、少将には貴子のことが既に耳に入っていたのである。
「貴方とは三歳しか違わないのですから、もう一人の妹として仲良くしてくださいね」
「はい、もちろんです」
御簾越しに微笑む顔に貴子は魅了された。
「善成、貴方の得意な曲を披露してくださいな」
「かしこまりました」
少将は腰に挿していた横笛を再び手にすると、美しい音色を響かせた。
貴子はうっとりとしながら聞き惚れた。
物語や絵巻に出てくる公達とは、このようなひとのことをいうのではないだろうか……。

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