あの日、僕等は罪を穴に埋めた─secret summer─


「……っ痛てぇ」


帰宅して早々、頬に与えられた衝撃が血の味を生んだ。

ああ、そうだった。なにより我が家が先に崩壊していたんだった。美菜への気持ち云々よりもこの頃はこっち(・・・)の方が問題で、甘酸っぱくて、わくわく、どきどき、だなんて感情持てやしなかった。


「お前はそんなことだから駄目なんだ!分家の奴等に馬鹿にされる気持ちがわかるか?!」
「わかるかよ!クソ野郎!」


親父は昔から気性が荒く、気に入らないことがあればすぐに手を上げる人間だった。それでも今よりはまだマシだったと思う。

今はもう、ただの狂人だ。


「口ごたえするのか?!この俺に!この村の権力者である俺に!」
「うるせぇよ!アンタこそ分家の連中に馬鹿にされてるの、気付いてないのか?そろそろ村長の座も弟に取られるんじゃね?」
「っぐ、この…!」


再び自分に与えられる強い衝撃。飛びそうになる意識の中で捉えた親父の両の目。あんなの、自分の息子を見る目じゃないだろ。

イカレテル。
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