終わりかけの永遠に
春先はまだ、少し冷え込む。
冷たい風が、髪を揺らす。
景色も、周りは建物だらけでとても良いとは言えない。

陵くんと響くんは、この高校で何を得たんだろう。

そんなことを考えていると、人の声が微かに聞こえてきた。

私以外にも誰かがいるらしい。
私は声のする方を向いた。

そこには、一人の男子の後ろ姿。
黒髪はサラサラと風に揺れ、つけているヘッドフォンの赤色を引き立たせていた。

でも、私にとって重要だったのは、彼の容姿ではなく、彼の歌声だった。

決して大声で歌っていたわけでは無かったけれど、彼に才能があることが分かった。

柔らかく優しい、しかしどこか儚げな彼の歌声は、私を虜にした。


「なんていう曲?」


私がそう聞くと、彼はヘッドフォンを外し、振り返った。

そこで、私は少し驚いてしまった。
彼の表情があまりにも無表情だったから。
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