ネトに続く現の旅
無言のまま、私たちは夜道を歩いていた。
すっかり自転車に乗るタイミングを逃した私は、やや斜め前を歩く男のことを、横目で観察していた。

足元には、手入れの行き届いたブーツと細身のパンツ。指には適度なシルバーのアクセサリー。流行りの黒髪はワックスでちゃんと立たせて、見るからに清潔そうでお洒落な今時の若者だ。
ヒールを履けば、大抵の男の人くらいの背の高さになってしまう私と並んでいても、まだつくね男の頭の方が少し飛び出ていることから見て、身長もかなりあるのだろう。すらっとしていて均整のとれた体つきをしていた。

「さっき仕事って言ってたけど、美容師さんか何かですか?」

私の方からそう声をかけた。

「へぇーそんな風に見えるんだ。残念だけど違うよ。これこれ。」

つくね男は、お尻のポケットから薄いデジカメを取り出してみせた。

「写真家?…それもデジカメ専用とか?」

「ふはは、君面白いなぁ。まぁそんな感じ。もちろん仕事では、もう少し大きなカメラを構えてますがね。フリーのジャーナリストなんだ。」

「え~?そういう仕事の人って、髪も伸びてて髭とかも生えてて、ジーパンにMA-1とか羽織ってそうじゃない。」

「それじゃただの偏見だよ。自分で身に付ける物なら、服だって小物だって納得のいく物を選びたいでしょ。」

それもそうだ。その証拠に、男に選ばれた靴やシャツや小物たちは、どれも活き活きしているように見えた。
特に靴が良かった。高そうな黒いハーフブーツは、ピカピカに磨かれてつくね男の足元に堂々と納まっていた。
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