ネトに続く現の旅
昔、仲の良かった女の先輩に、男の人は足元を見なさいと言われたことがある。
確かに、顔は格好良くても、萎れた靴を履いている男の人を見るとがっかりしてしまうものだ。
品定めする訳ではないけれど、その点つくね男の靴は合格だった。
よく見ると、靴ひもと靴とが、どことなく素材が違っていた。きっと気に入った物を自分で買って、後から付け替えたのだろう。
“お洒落なんだなぁ”
私はそんなことを思いながら、家のげた箱にきちんと向きを揃えて並べられた靴たちを、出掛けに吟味しているつくね男の姿を想像していた。
駅前を抜けて、二つ並んだ踏切を越えると、住宅街へと続く長くて緩やかな上り坂が現れる。
道の両側には、青々と茂る街路樹と、紫陽花の植え込みがどこまでも並んでいた。
その坂道のちょうど真ん中あたりに私の家はあった。
夜の匂いに混じって微かに香る緑の匂いが、体中にくっつくようで気持ちが良かった。
私は、夏の始まりのこんな夜が、一年のうちで一番好きだ。
いざ夏本番がやってくると、今度はだんだんと夜が長くなっていくことや、一雨ごとに蒸し暑さが無くなり、涼しくなっていくことなんかで、大好きな夏が少しずつ形を変えて削り取られていくのが、ひしひしと伝わってきて、物悲しくなってしまう。
「むっちゃんって?」
コツコツと靴音を鳴らして、つくね男が言った。
「あぁ、睦月っていうんです。」
「一月生まれとか?」
「そう、単純でしょう。」
確かに、顔は格好良くても、萎れた靴を履いている男の人を見るとがっかりしてしまうものだ。
品定めする訳ではないけれど、その点つくね男の靴は合格だった。
よく見ると、靴ひもと靴とが、どことなく素材が違っていた。きっと気に入った物を自分で買って、後から付け替えたのだろう。
“お洒落なんだなぁ”
私はそんなことを思いながら、家のげた箱にきちんと向きを揃えて並べられた靴たちを、出掛けに吟味しているつくね男の姿を想像していた。
駅前を抜けて、二つ並んだ踏切を越えると、住宅街へと続く長くて緩やかな上り坂が現れる。
道の両側には、青々と茂る街路樹と、紫陽花の植え込みがどこまでも並んでいた。
その坂道のちょうど真ん中あたりに私の家はあった。
夜の匂いに混じって微かに香る緑の匂いが、体中にくっつくようで気持ちが良かった。
私は、夏の始まりのこんな夜が、一年のうちで一番好きだ。
いざ夏本番がやってくると、今度はだんだんと夜が長くなっていくことや、一雨ごとに蒸し暑さが無くなり、涼しくなっていくことなんかで、大好きな夏が少しずつ形を変えて削り取られていくのが、ひしひしと伝わってきて、物悲しくなってしまう。
「むっちゃんって?」
コツコツと靴音を鳴らして、つくね男が言った。
「あぁ、睦月っていうんです。」
「一月生まれとか?」
「そう、単純でしょう。」