ネトに続く現の旅
どちらかというと、その人を信頼しているというよりも、その人に自分の身を預けて、例えその結果が転倒だったとしてもいいんだという、覚悟のようなものに近い気がする。
私は、なんとなく結婚に似てるなと思った。

実際、スピードが出ている時は、バイクの上からでは見えないような小石を踏んだだけでも、車体がぐらついたりする。
その瞬間ひやっとはするものの、それよりも、このままずっとこんな風に現の後ろにくっついていたいと思う気持ちの方が、ずっと勝っていた。


赤信号で止まる度に、たいして手入れも何もしていない、かさかさの私の膝を、現が優しく撫でる。何度も何度も。

顔が見えない分よけいに、その優しい手の温もりに愛おしさを感じた。


それから、お尻が固まってしまったように痛くなるまで、バイクの後ろにまたがって、色々なところを走ってもらった。
家まで送ってもらった頃には、もう夕暮れ時だった。

「今日はどうもありがとう。とっても楽しかったわ。」

「いえいえ。むっちゃんがこんなにアウトドア派だとは思わなかったよ。」

「自分でもびっくりしたわ。」

こんなにバイクに乗るのが気持ちの良いものだとは、本当に新発見だった。

「じゃあまた。」

そう言って右手を上げると、現は生暖かい空気をかき分けながら、坂道を下っていった。
現のバイクが通った後には、甘いような粉っぽい面白い香りが残されていた。
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