ネトに続く現の旅
私は、家の玄関を開けると、どたどたと階段を駆け上がり、自分の部屋へと一目散に向かった。
机の引き出しからルーズリーフの束を取り出すと、表面のビニールを剥がして、そこから一枚を取り出した。
本当はさっきから、現の後ろでずっと頭の中に次々と言葉が浮かんでいたのだ。
それを忘れてしまわないうちに、余韻が残っているうちに、私は机に向かって一心不乱に書き綴った。


私には、恥ずかしながら高校生の時くらいから、自分の胸の内にある想いや、日々の生活の中で感じたことなんかを、得意の妄想を織り交ぜて、自分なりの言葉に変えて書き貯める癖があった。
学校で毎日友達と笑いあっていても、本当に大事なことはその場ですぐに言葉に変えることが苦手だったので、いつも家に帰ってきてから次々と言葉が溢れてきて、その度にそれをノートに書いていた。


唯一珠子にだけはそれを打ち明けていたのだけれど、彼女もまた、自分の内面を人にさらけ出すのを苦手とする部類だったので、高校生の時は、よく二人で夢日記の交換なんかもしていたほどだ。

だから今でも、こうやって胸に残るようなことがあれば、すぐに文章にしていた。



“あなたの背中にしがみついて

肩越しに同じ景色を見ながら

風を切ったっけ

よく似たバイクを見かける度に

なんともいえない想いがこみ上げて

私の胸を締め付ける

もう帰れないあの頃を想って

また私は泣くんだろうか”
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