ネトに続く現の旅
確かに私は、周りの二十二歳に比べれば多少大人びて見えるのかもしれない。それは、私の変わった家庭環境のせいだと思う。


私は、まだ言葉もろくに話せないくらい小さな頃から、両親の顔を知らずに育った。
当時、育児ノイローゼだと診断された母親は、生後十一ヵ月の私を施設に預けた。
父親は、もうとっくに他に女の人を作って、家を出て行ってしまったらしい。
未だに、ふたりともどこにいるのか、誰と暮らしているのか、まったくわからない。

けれども、そんな暗い生い立ちとは裏腹に、私は明るく元気に、そしてとびきり健康に育った。
施設での生活はとても穏やかだったし、何より九歳の時に、今の義両親が私のことを引き取ってくれたからだ。
彼らは優しかった。
施設を出る時に、あなたの本当のお父さんとお母さんは別にいるのよと、先生に説明されたけれど、そんなことは、私にとってはなんの問題でもなかった。それでも彼らは私と一緒に暮らしたいと思ってくれたんだと、幼いながらに理解することができた。

先生方に挨拶をすませると、施設の庭に佇む、まだ若い桜の木の葉っぱが風でざわめくところを、しばらくの間三人で眺めていた。
彼らの乾いた手のひらを握りながら、私は、これからの自分の未来が、その枝の隙間から覗く柔らかい光のように、瞬いていくことを予感していた。
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