ネトに続く現の旅
「もうちょっと涼しくなってから連れ出してやればいいのに。」

現が笑いを交えてそう言うと、ハナちゃんは、アスファルトの地面を踏み鳴らし、「じいさん、じいさん」と、大きな声で言った。
すねて口をとがらせた子供のような表情だった。

「そっか、ごめんね。」

現がしょんぼりとそう言うと、ハナちゃんは少しだけ慌てたようなしぐさをして、肩から斜めにかけたバックの中をがさがさと漁りだした。
その奥の方から飴玉をふたつ取り出すと、ぶっきらぼうに現の前に差し出した。

現が手を開くと、ハナちゃんは、ブルーの包み紙の方の飴玉を現に、ピンクの包み紙の飴玉を私に、これまたぶっきらぼうに手渡した。

「ありがとう。」

現の声と私の声が合わさって、宇宙人のような声に聞こえた。

それからハナちゃんは、五本のリードを引っ張って、八月の厳しい日差しの中をずんずん進んでいった。

段々と小さくなっていくハナちゃんの背中を見届けながら、ゆっくりと現が口を開いた。
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